ROMで自動介助運動や自動運動を実施する際、代償運動に注意して実施できていますか?
関節可動域の角度だけを評価していませんか?
関節運動では、筋肉が適切に働いているかという運動の質も評価する必要があります。
それには正常運動と代償運動が区別できることが必要ですが、教科書では理解できても、実際の臨床で気づけないことが多いのではないでしょうか?
今回は代償運動を見逃さないための観察ポイントについて考えてみます。
代償運動について
代償運動とは
運動に必要な筋肉が疾患や加齢によって使いにくくなることで、他の筋肉で補って本来の運動とは異なる運動になることです。
本来使用する筋肉ではないので、必要以上に筋力を使用する効率の悪い運動になります。
代償運動による問題
- 本来使うべき筋肉の筋力低下
- 過剰な努力による筋肉の痛み
- 身体の柔軟性低下
- 関節への負担
- エネルギー効率が悪く疲れやすい
- 非対称な運動による姿勢の崩れ
- 運動の見た目が悪い
但し全ての代償運動が悪いというわけではなく、障害された機能を補って動作を獲得するために必要な場合もあります。
大切なのは「何の代償運動なのか」「改善できる問題なのか」「どの程度の代償が許容範囲か」などをきちんと見極めることだと思います。
ROMでの観察ポイント
ここからは代償運動に気付くために見た方がよいと思うポイントについてお伝えします。
①姿勢
姿勢は運動を行う際の身体の土台になります。
運動前から姿勢が崩れていたり、運動に伴い姿勢が崩れたりすると筋肉がバランス良く働きません。
悪い例
- 肩関節屈曲→体幹伸展
- 肩関節外転→体幹側屈
②呼吸
運動時に呼吸が止まったり浅くなったりすることがありますが、負荷をかけていない状態で呼吸が乱れる場合は過剰な出力と言えます。
過剰な出力になる場合、深部筋の筋力低下を表在筋で代償していることが多く見られます。
体幹の深部筋はインナーユニット(横隔膜、腹横筋、多裂筋、骨盤底筋群)といい、姿勢と呼吸に深く関係しています。
姿勢と呼吸が安定しているときは体幹の深部筋が良好に働いていると思われます。
悪い例
- 運動開始時→過剰な出力により呼吸を止める
- 運動時→過剰な出力や姿勢の崩れにより呼吸が浅くなる
③動かす関節
特に肩関節や股関節といった球関節は多様な運動ができる反面、安定性を失いやすく非効率な運動になりやすいです。
非効率な運動に気付き、正しい運動を誘導・指導することが必要です。
悪い例
- 肩関節屈曲→肩関節外転・内旋を伴う
- 股関節屈曲→股関節外旋を伴う
④動かす関節の一つ近位の関節
本来は固定に働く近位関節を動かすことで運動を補うことがあります。
近位関節の運動で遠位の筋出力を補うことはありますが、姿勢の崩れや呼吸の乱れを伴う場合は、過剰出力により運動が制御できていない状態です。
悪い例
- 肩関節屈曲→肩甲骨挙上・後退
- 股関節屈曲→骨盤後傾
⑤動かす関節の一つ遠位の関節
遠位から選択的に関節を動かすと出力しやすくなりますが、姿勢の崩れや呼吸の乱れ、近位関節の代償運動を伴う場合は、過剰出力により運動が制御できていない状態です。
遠位筋の過剰出力を確かめながら運動を誘導・指導する必要があります。
悪い例
- 肘関節屈曲→手関節掌屈の過剰努力
- 膝関節伸展→足関節底屈の過剰努力

まとめ
観察の視点は多いほど良いですが、まずはこの5つに注意して実施してみてください。
ROMでは呼吸に合わせて動かす習慣を持つだけで、呼吸から身体の状態がある程度評価できるように思います。