今回は他動運動による関節可動域運動(ROM:Renge of motion)について考えてみたいと思います。
他動運動は対象者の筋力を伴いませんので、ただ関節を動かして角度を測るということでは生活が改善しません。
拘縮予防として使用されることが多いですが、他動運動のみで拘縮が改善できるのでしょうか?
評価・治療は、常にどういう場合にどういう目的で実施すれば効果的であるかを考えなければいけません。
関節可動域運動は毎日使用する基本の評価・治療なので、知識を深めるほど評価・治療の幅が広がるように思います。
他動運動とは
関節可動域運動とは身体の各関節が運動を行う際の生理的な運動範囲のことです。
各関節で正常な運動範囲が決まっており、測定は角度計を用いて5°刻みで行います。
その中で他動運動とは評価・治療において対象者自身で運動を行わず、療法士が対象者の関節を動かす方法になります。
他動運動の目的
評価
- 純粋な関節可動域の範囲を測定
- 関節可動域の制限因子の鑑別
治療
- 軟部組織(皮膚、筋、靭帯、腱)の柔軟性改善
- 緊張緩和
他動運動の適応
評価
- 関節可動域に制限がある方
治療
- 弛緩麻痺などで随意運動が困難な方
- 痙性麻痺など軟部組織の柔軟性低下がある方
- 五十肩など収縮時痛がある方
- 術後や不使用など軟部組織性の可動域制限がある方
他動運動の注意点
- 痛みを伴うような強引な運動をしない
- インピンジメントが起こりやすい関節は特に注意して動かす
- 正しい運動方向に動かす
他動運動のポイント
可動域制限の原因を鑑別する
①改善が見込める拘縮
- 皮膚性の拘縮:皮膚の挫創や熱傷後など
- 筋性の拘縮:固定、筋力低下などの不動による短縮、萎縮
- 結合組織性の拘縮:腱や靭帯の伸張性低下、腱膜の癒着や瘢痕化
- 神経性の拘縮:痛みなどによる筋スパズムの持続
②改善が難しい拘縮
- 骨性の強直:加齢や病気により軟骨が破壊され骨組織が統合
- 線維性の硬直:拘縮が進行することによる結合組織の癒合
制限因子に応じて動かし方を考える
①筋の柔軟性改善
動かしやすい方から動かしにくい方へゆっくり反復する
筋の構造
筋肉のはアクチンとミオシンという線維が互いに滑走することで伸縮します。
そのため筋肉を伸ばす場合はゴムのように引っ張るのではなく、アクチンとミオシンが滑走するように運動を反復させることが望ましいように思います。
②腱や靭帯の柔軟性改善
可動域制限がある方向へ持続的にストレッチを実施する
自動・自動介助運動の準備として実施する
他動運動により筋を伸縮させることで柔軟性が改善し、筋が働きやすい状態になります。
この状態で運動を行うと硬くなっていた筋の拮抗筋や共同筋が働き、可動域の拡大や筋力向上につながりやすくなります。
意思疎通が難しい方、意欲が低い方など意識的に運動することが難しい方でも、不随意筋(遅筋)に着目すれば筋を働かせることが可能です。
まとめ
関節可動域運動は、ただ関節を動かすのではなく、目的に応じた運動方法を実施することで効果が上がります。
もっと詳しく知りたい方のために、おすすめの書籍も紹介しておきます。