現在の医療ではICF(国際機能分類)をもとに情報整理、情報共有することが基本でますが、普段の臨床で活用できていますか?
ICFは対象者の全体像把握に有効なツールで、セラピストの思い込みや価値観を押し付けることを防げます。
介入時は、問題点や苦手なことだけに着目せず、プラス面を活かせるようになるので対象者の負担が減り意欲も高まります。
今回は臨床でのICFの活用方法についてお伝えしたいと思います。
ICFについて
ICFとは
ICFとは2001年にWHO(世界保健機関)が提唱した、国際機能分類(International Classification of Functioning ,Disability and Health)の略称。健康状態、心身機能、障害の状態を相互影響関係および独立項目として分類し、当事者の視点による生活の包括的・中心的記述をねらいにする医療基準
wikipediaより引用
「人が生きる」ことを
- 生命レベル = 心身機能、身体構造
- 生活レベル = 活動
- 人生レベル = 参加
上記の3つのレベルとそれらに影響を与える個人因子、環境因子なども含め、総合的に捉えようと提案しています。
ICIDH
ICFが提唱される以前はICIDH(国際障害分類)という障害を機能・形態障害、能力障害、社会的不利の3つのレベルに分けて捉える考え方が主流でした。

ICFとICIDHの比較
- ICFでは心身機能・身体構造、活動、参加といった中立的な用語を使用しプラス面にも着目するようになった。
- ICFでは背景因子(個人因子・環境因子)が加わり、障害者ではなく一人の人として対象者を考えるようになった。
- ICFでは情報量が増えたことで情報整理が難しく、使用に時間を要するようになった。
ICFで全体像を把握すると情報の漏れが減りますが、時間の制約などを理由に問題点のみで短絡的に評価していることが多いように思います。
各項目について

健康状態(変調または病気)
- 病気
- 外傷
- 全身状態(肥満、加齢など)
- ストレス状態(不眠、便秘など)
心身機能・身体構造(生命レベル)
- 身体の動き
- 精神の働き
- 感覚、知覚
- 部分的な身体の状態(欠損、アライメントなど)
活動(生活レベル)
- 日常生活動作(ADL)
- 日常生活関連動作(IADL)
- 余暇活動(できる活動・している活動)
参加(人生レベル)
- 社会参加
- 仕事
- 家庭内の役割
- 地域活動への参加
- 政治活動への参加
環境因子
- 人的環境(家族、友人、仕事の仲間など)
- 物的環境(建物、場所、公共交通機関、福祉用具など)
- 制度的な環境(医療・介護保険、年金、生活保護など)
個人因子(個人の尊重)
- 年齢
- 性別
- 生活歴(職歴、学歴、家族歴、病前の生活など)
- 価値観
- 趣味、特技
- 嗜好品
ICFの活用について
ここからはICFを簡略化して臨床で活用する方法について考えていきます。
ICFを活用する目的
- 個人を尊重した目標設定ができる
- プラス面を活かしたアプローチができる
ICFの項目をただ埋めるだけでは情報がまとまらないので、必要な情報を絞ることが重要です。
目的指向(トップダウン)で記載すると情報が絞れるので、健康状態と背景因子をもとに参加から考えます。
ICFの活用方法
記載する順序
- 健康状態
- 背景因子(個人因子・環境因子)
- 参加:プラス→マイナス
- 活動:プラス→マイナス
- 心身機能・身体構造:プラス→マイナス
各項目の記載方法
①健康状態の把握
現病歴、既往歴から疾患の特性を把握しておきます。
②背景因子(個人因子・環境因子)の把握
本人や家族(特に介護者)のニーズ、病前の生活、生活環境などを把握します。
本人や家族のニーズが満たせる状態にあるかを健康状態も合わせて検討します。
③参加の情報整理
健康状態と背景因子から獲得できると思われる最上のQOLを考えます。
本人の人生の課題なので、なるべく本人の意志で決定します。
※本人が決定できない場合、意思表示や意思発動、見当識といった決定できない状態を改善することが目標になります。
- プラス面:一日の生活で最もQOLを上げていること
- マイナス面:参加のプラスで不十分な部分、獲得可能な最上のQOL(長期目標)
④活動の情報整理
参加のマイナスとつながるADL・I ADLをピックアップします。
活動は毎日している活動で頻度が多いものから考えると生活習慣を把握できます。
- プラス面:参加のマイナスに関連したできるADL・I ADL
- マイナス面:参加のマイナスに関連した充分にできないADL・I ADL(短期目標)
⑤心身機能、身体構造の情報整理
活動のマイナスとつながりがある機能をピックアップします。
情報量としては1回のリハビリ(20〜40分)で評価、アプローチできる量が適切に思います。
- プラス面:活動のマイナスで使えている機能
- マイナス面:活動のマイナスに必要だが充分に使えない機能(短期目標達成に必要な機能)
心身機能・身体構成が改善するたびに活動のプラスから見直すことで短期目標が変わり、長期目標に近づきます。
介入前からカルテやサマリーなどの事前情報をもとに作成しておくと、足りない情報や必要な評価が明確になり介入がスムーズです。
ICFの活用例
入手した情報を整理してまずは大まかに仮説を立てます。
症例
A様70歳代の女性で転倒により左大腿骨頸部骨折を受傷。人工骨頭置換術を施行し、術後1ヶ月で現在は歩行器歩行自立、病棟内の生活は全て自立している。独居の方で受傷前は自宅から200ⅿのスーパーへ独歩で買い物へ行っていた。最長2ヶ月で退院予定。
①健康状態の把握
左大腿骨頸部骨折(人工骨頭置換術)の疾患特性
- 殿筋群、大腿筋膜張筋の切開による筋力低下の可能性がある
- 深層外旋6筋の切離による筋力低下の可能性がある
- 股関節伸展・内転の可動域制限の可能性がある
- 歩行時のバランス能力低下の可能性がある
⇒筋力、関節可動域、バランス能力の評価が必須
②背景因子(個人因子・環境因子)の把握
独居であるため病前と同様に屋外の活動ができる方が望ましく、困難な場合は環境調整の検討が必要。
健康状態から考える今後の予測
- 左大腿骨頸部骨折OPE後1ヶ月で病棟内歩行器歩行ができており、2ヶ月後には自宅から200ⅿのスーパーへ買い物へ行ける可能性が高い。
- 2ヶ月後のバランス能力によっては、屋外歩行時のT字杖使用を提案する。
③参加の情報整理
- プラス面:病棟内は歩行器歩行で自発的に洗濯や下膳ができている。
- マイナス面:自宅から200ⅿのスーパーへ独歩で買い物へ行くことが難しい。
④活動の情報整理
- プラス面:病棟内は歩行器自立
- マイナス面:病棟内は杖歩行介助
⑤心身機能、身体構造の情報整理
- プラス面:左下肢への荷重が幾分可能
- マイナス面:左股関節周囲筋の筋力低下、バランス能力低下


まとめ
ICFを活用することで、個人を尊重したやさしい介入につながればと思います。
メアリ・リンチ・エラリントン他著書「英国ボバース講師会議によるボバース概念」では、国際生活機能分類(ICF)を背景とした評価が書かれています。