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神経心理ピラミッドを活用した高次脳機能障害へのアプローチ

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高次脳機能障害の方の状態把握のために、どのような評価や指標を使用していますか?

養成校では、症状に対する量的評価を主に学ぶのではないかと思います。

しかし、量的評価のみではできるかどうかの評価になり、マイナス面に着目しませんか?

高次脳機能障害の方へ対して苦手なことにアプローチした場合、ストレスによりノルアドレナリンを分泌し、回復を妨げることもあります。

質的評価の方法としては、コミュニケーションや行動観察になるかと思いますが、私は神経心理ピラミッドを指標として活用しています。

今回は神経心理ピラミッドと臨床での活用方法についてお伝えしたいと思います。

高次脳機能障害について

高次脳機能とは、知覚、注意、記憶、判断、運動、言語などの認知過程と行為の感情を含めた精神機能の総称です。

病気(脳出血、脳梗塞、脳腫瘍)や怪我(頭部外傷)による脳の損傷で、認知機能に障害が起きた状態を高次脳機能障害といいます。

代表的な症状と病巣

症状 病巣
注意障害 右半球、広範囲の脳損傷
記憶障害 視床、前脳基底部、側頭葉内側面(海馬)
失語症 左半球、前頭葉下部、側頭葉、角回
失行 左頭頂葉
失認 両側後頭葉
半側空間無視 主に右頭頂葉
行動と情緒の障害 前頭葉から側頭葉

高次脳機能障害の評価

臨床で使用することが多いと思われる評価を量的と質的に分けて以下にあげてみます。

量的評価

認知機能 MMSE、HDS-R
知的機能 WAIS-Ⅲ、レーブン色彩マトリックス検査、コース立方体組み合わせテスト
記憶 三宅式記銘力検査、ベントン視覚記銘力検査、WMS-R、RBMT行動記憶検査
注意 TMT、CAT、かなひろいテスト
前頭葉機能 FAB、WCST、BADS
半側空間無視 BIT行動無視検査日本版、コース立方体組み合わせテスト
失語 標準失語症検査(SLTA)

質的評価

  • コミュニケーション
  • 行動観察

質的評価の指標:JCS、意欲の指標、神経心理ピラミッドなど

脳はネットワークで働いているため、病巣への評価だけでは不十分です。

量的評価では症状の回復を評価、質的評価では脳のネットワークとしての働きを評価することが有効だと考えます

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神経心理ピラミッドについて

神経心理ピラミッドとは、Rusk(ニューヨーク大学医療センターの脳損傷通院プログラム)で使用されている指標で、認知機能を中心とした心理学的機能を階層的に捉えたものです。

認知機能には階層があり、下の階層が上の階層の基礎となります。

そのため、下の階層の機能障害はそれより上の階層の全ての機能に影響を与えるという考え方です。

このピラミッドは、脳の神経ネットワークの回復過程を示しています。

  • 基礎レベル情報処理より下の階層
  • 高次レベル記憶より上の階層

基礎レベル

精神的・心的エネルギー

  • 神経疲労が著しく、起きていられない。
  • 警戒心がない。

発動性、抑制

  • 無気力:発動性低下、自発性低下
  • 脱抑制:加減が分からない、落ち着きがない、常にイライラ、感情易変、易怒性

注意力と集中力

  • 注意の持続低下
  • 注意散漫

情報処理能力

  • 受信:情報を正確に把握できない、時間がかかる。
  • 発信:断片的表現、内容に脈絡がない。

高次レベル

記憶力(認知訓練期)

  • 即時記憶
  • 近時記憶
  • 遠隔記憶

遂行機能、論理的思考力(生活・職能訓練期)

  • まとめ力
  • 多様な発想力

自己認識

  • メタ認知
  • 予測的な気づき
  • 病識

臨床ではピラミッドの階層に対象者の状態を当てはめ、土台部分の下の階層(プラス面)へアプローチを実施します。

表面的に問題になりやすいのは記憶や遂行機能ですが、基礎レベルからアプローチしていくことが重要です。

三位一体脳モデル

三位一体脳モデルを使用するとこのピラミッドをおおまかに捉えることができます。

  1. 脳幹:爬虫類脳(反射脳)
  2. 大脳辺縁系:哺乳類脳(情動脳)
  3. 大脳新皮質:人間脳(理性脳)→高次レベル

神経心理ピラミッドの活用方法

活用するにあたり、ピラミッドの階層に対象者の状態を当てはめることが難しいかもしれません。

ここからは私の経験をもとに活用例を記載していますが、個人的な意見であることをご了承ください。

基礎レベル

精神的・心的エネルギー

状態の目安

  • 昏睡:刺激に対して反射レベルでの反応しかない。(JCS100以下
  • 昏迷:強い刺激でわずかに反応がある(JCS20〜30
  • 傾眠:刺激に対して開眼するが持続は不十分。(JCS10

評価

  • JCS
  • GCS

アプローチの目的

  • 上行性網様体賦活系(脳幹網様体、視床)への入力により覚醒レベルを向上する。

アプローチの例

  • ギャッジ座位
  • 日光浴
  • 手のマッサージなど

注意点

脳幹網様体の特性から不快な刺激は覚醒しやすいですが、不穏につながる恐れがあります

発動性、抑制

状態の目安

  • 刺激に対して反射的な反応がある。(JCS10)
  • 開眼はある程度持続するが、現状把握が不十分。(JCS2〜3)
  • 発動性低下:自発的な発話・表情の変化が少ない。
  • 脱抑制:落ち着きがない、よく喋る、起伏が激しい。

評価

  • JCS
  • GCS

アプローチの目的

  • 覚醒レベル、思考の耐久性向上を目的にエピソード記憶や手続き記憶へアプローチする。
  • 脱抑制は前頭葉機能を向上することで行動が落ち着いてくる。

アプローチの例

  • 車椅子での散歩
  • 手のマッサージ
  • 物品の探索など

注意点

無理に発動を促したり行動を抑制したりすることはストレスを与え、リハビリ拒否につながるかもしれません。

注意力・集中力

状態の目安

  • 注意の選択低下(注意散漫)
  • 注意の持続低下
  • 2択程度の選択が可能。
  • 今ひとつぼんやりした状態(JCS1、2

評価

  • JCS
  • GCS
  • 作業耐久性(時間)など

アプローチの目的

  • 注意の持続が可能となるように様々な刺激から耐久性を向上する。

アプローチの例

  • 車椅子での散歩
  • 回想法
  • 物品の提示など

注意点

関心がないものへ注意を向けることは、健常者でもストレスです。

情報処理能力

状態の目安

  • 時間を要すが話をある程度理解できる。
  • 思ったことを断片的に表現できる。
  • 言語や動作が今ひとつまとまらない。(軽度の失語・失行
  • 注意の選択・持続が可能。(TMT(A)正常値)

評価

  • 意欲の指標
  • 作業耐久性
  • TMT(A)など

アプローチの目的

  • 能動的な表出を増やすことで、認知過程を賦活する。

アプローチの例

  • 回想法
  • 作業活動による物品操作など

注意点

動作や言語を出力することに時間がかかりますが、本人の判断で実行できるように待つことで認知機能が働きます。

基礎レベルでは脳幹(爬虫類脳)〜大脳辺縁系(哺乳類脳)が働くようにアプローチします。

心地よく覚醒し、自発的に注意が拡大していくことが目標です。

高次レベル

自分への気づきが得られてくる段階です。この段階からリハビリの内容を覚えることができてきます。

記憶力(認知訓練期)

状態の目安

  • 現状をある程度把握でき、現実的な目標が設定が可能。
  • 身体機能や動作について前回や前日と比較が可能。
  • 情報処理能力の改善によりスムーズな会話や動作が可能。
  • 立体図形の模写が可能。(模倣
  • 記憶力改善。(HDS-R正常値

評価

  • 意欲の指標
  • MMSE、HDS-R
  • TMT(A、B)など

アプローチの目的

  • 動作や言語の出力がよりスムーズになるようにサポートする。

アプローチの例

  • 会話、物品操作から気づきを増やす

注意点

記憶力の低下に対して、メモのような道具での代償をなるべく早期に行わず、本人からの気づきを待ってみることも大切です。

遂行機能、論理的思考力(生活・職能訓練期)

状態の目安

  • 自ら目先の課題に気付いて取り組める。
  • 身体機能によっては自動車運転が可能。
  • 地図の想起。(イメージの一致
  • 服薬管理・金銭管理が可能。
  • ワーキングメモリー改善。(FAB正常値
  • 注意の分配改善。(TMT(B)正常値

評価

  • FAB
  • MMSE、HDS-R
  • TMT(B)
  • 症状に応じた高次脳機能検査など

アプローチの目的

  • 自己認識が明確になっていくように課題への気づきを増やす。

アプローチの例

  • 本人が課題を持って取り組めるようにサポートする。

注意点

ほとんどの事ができる段階ですが、課題の難易度だけを上げず、目標に向けて本人が主体的に取り組むことが大切です。

自己認識

状態の目安

  • 病識が十分にある。
  • 自ら問題点を詳細に把握して克服または注意して生活ができる。
  • 今後の生活を予測して準備ができる。

苦手な課題よりも、現在できること(下の階層)を主体的に取り組む方がドーパミンやセロトニンを分泌し、脳の機能を高めます。

まとめ

今回は少しでも多くの方がこの指標を活用できればと思い、個人的な経験をもとに判断基準を書くことに挑戦してみました。

高次脳機能障害の有無に関わらず、好きなことや得意なことを考えることが脳の一番の栄養になります。

この神経心理ピラミッドを活用すれば現象に捉われず、プラス面に着目したアプローチが選択しやすくなるかと思います。

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