今回は、高次脳機能障害の中でも介入する機会が多い注意障害について考えてみたいと思います。

周囲への注意や自身への注意、二重課題など、注意の問題は多岐にわたります。

臨床では、

  • 苦手なことに直接注意を促す
  • 「もっと集中してください」と声をかける

といった対応をすることも多いかもしれません。

しかし、注意障害の背景には、覚醒や自発性の問題が関係していることも少なくありません。

注意障害の知識を深め、状態を正しく把握することで、対象者にとってやさしい介入につながるのではないかと思います。

注意障害について

注意障害とは、自分に必要な情報に注意が向かない、集中できない、処理できないことで日常生活に支障をきたす状態です。

注意機能は大きく、

  • 全般性注意
  • 方向性注意

に分けられますが、今回は全般性注意について考えていきます。

全般性注意とは

全般性注意とは、意識活動に必要不可欠な要素であり、
特に生活における危険回避において重要な役割を果たします。

全般性注意の障害は、次の4つに分類されます。

① 持続性注意障害

対象となるものに、一定以上の注意を向け続けることが難しくなります。

生活での問題

  • 疲れやすく、すぐに眠たくなる(易疲労性)
  • 話を最後まで聞くことができない
  • ぼーっとしていることが多い

臨床では、覚醒レベルの低下と関連している場合もあります。

② 選択性注意障害

多くの情報の中から、必要な情報だけを選択することが難しくなります。

生活での問題

  • 注意散漫で落ち着きがない
  • 話している相手に注意が向かない
  • 必要な物品を選ぶことができない

環境刺激が多い場所では、症状が目立ちやすくなる特徴があります。

③ 転導性(転換性)注意障害

ある対象から別の対象へ、注意をスムーズに切り替えることが難しくなります。

生活での問題

  • 移乗時にブレーキ操作を忘れる
  • 作業中に呼びかけても気づかない
  • 時間になっても作業をやめられない

これは、遂行機能の問題とも関連します。

④ 分配性注意障害

複数の対象に同時に注意を向けることが難しくなります。

生活での問題

  • 話しながら作業ができない
  • 電話をしながらメモがとれない
  • 作業量の把握が難しい
  • 歩きながら会話すると立ち止まってしまう

いわゆる二重課題が苦手な状態です。

注意機能のメカニズム

注意は単一の機能ではなく、複数の要素によって支えられています。

ここでは、注意を支える3つの要素について整理します。

① 喚起(Arousal)

関与部位:

  • 脳幹網様体賦活系
  • 視床下部
  • 前脳基底部

役割:

刺激を検知すると、脳全体の覚醒レベルを高める働きをします。

この機能が低下すると、注意以前に「集中できない」状態になります。

② 定位(Orientation)

関与部位:

  • 中脳上丘
  • 頭頂葉

役割:

新しい刺激へ注意を向ける働きを持ちます。

例えば、

  • 呼びかけへの反応
  • 音への振り向き

などがこの機能に関係します。

③ 焦点(Focus)

関与部位:

  • 視床
  • 前頭葉

役割:

注意を向け続ける働きを持ちます。

この機能の低下は、持続性注意障害として表れやすくなります。

注意障害への評価

評価は、量的評価と質的評価の両方が重要になります。

量的評価

Trail Making Test(TMT)

評価内容:

  • 持続性注意
  • 選択性注意
  • 注意の切り替え

特に、TMT-Bは転換性注意を反映しやすい検査です。

また、AとBの差を見ることで、注意の柔軟性を評価することもできます。

② かなひろいテスト

評価内容:

  • 持続性注意
  • 選択性注意

特徴:

前頭葉機能のスクリーニングとしても有用です。

理解力の問題が背景にある場合も把握しやすくなります。

③ 前頭葉機能検査(FAB)

注意機能と密接に関係する、遂行機能を多面的に評価できます。

質的評価(非常に重要)

道具を必要とせず、短時間で実施できるため、臨床でも使いやすい検査です。

神経心理ピラミッドでは、注意機能は基礎レベルに位置します。

その下には、

  • 覚醒
  • 自発性

があります。

つまり、注意障害の背景を理解するためには、覚醒と自発性を評価することが重要になります。

観察ポイント

覚醒レベル

  • 呼びかけへの反応
  • 発話量
  • 表情の変化

(JCS・GCSなどを参考)

自発性

  • 物品への探索
  • 使用の試み
  • 興味関心の有無

外界への反応

  • 環境への適応
  • 周囲への関心

これらを丁寧に観察することで、注意障害の背景が見えてきます。

注意障害へのアプローチ

神経心理ピラミッドから考えると、自発的な活動が増えることで注意が広がると考えられます。

そして、広がった注意がまとまり、次の階層である情報処理へ向かっていきます。

アプローチの基本的な考え方

注意を向けさせるのではなく、反応が出る環境を作ることが重要です。

① 自発的反応が出る課題設定

例:

  • 好きな物品を使用する
  • 興味のある作業を取り入れる
  • 成功しやすい課題を提示する

重要なのは、反応が出るかどうかです。

② 待つことの重要性

セラピストが主導しすぎると、自発性が低下します。

対象者の反応を、じっくり待つことが大切になります。

③ 課題難易度の調整

反応が出ない場合、能力不足ではなく、難易度不適合であることが多いです。

  • 難しすぎる
  • 簡単すぎる

どちらでも反応は減少します。

臨床でよくある症例イメージ

症例:70代男性・脳梗塞後

  • 会話中に視線が外れる
  • 作業が長続きしない
  • 指示には従える

TMT-A:延長
TMT-B:著明延長

神経心理ピラミッドの視点

問題:自発性低下が注意低下の背景にあると考えました。

実施したアプローチ

  • 興味のある物品(新聞)を使用
  • 短時間課題を反復
  • 成功体験を積み重ねる

変化

  • 視線の持続が向上
  • 会話の継続時間が延長
  • 作業時間が増加

このように、表出が増えることで注意がまとまる変化がみられました。

まとめ

神経心理ピラミッドから注意障害を考えると、
「注意を向けさせる」ことよりも、「表出が増えるように関わる」
ことが重要になります。

対象者自ら周囲に関心を持てるようになることで、注意は自然と広がっていきます。

認知機能の回復段階を知ることで、対象者にやさしい介入ができるようになるのではないかと思います。

神経心理ピラミッドとは?高次脳機能障害の評価と臨床活用をわかりやすく解説今回は脳卒中の後遺症である高次脳機能障害を評価するための指標として、神経心理ピラミッドの活用方法についてお伝えできたらと思います。神経心理ピラミッドとはRusk(ニューヨーク大学医療センターの脳損傷通院プログラム)で使用されている指標で、認知機能を中心とした心理学的機能を階層的に捉えたものです。...