今回は話が止まらない、注意散漫で落ち着きがないといった脱抑制の方へのリハビリの進め方について考えてみたいと思います。
病棟や施設では問題となる行動が多く対応に困る状態かと思いますが、状態を正しく把握することで介入への幅が広がるかもしれません。
脱抑制について
脱抑制とは
健常者のように礼節を保とうとしたり、社会的に逸脱しないようにするといった正常なコントロールが失われた状態になっています。
行動や感情のコントロールは主に前頭葉が司っており、前頭葉機能が低下した状態にあると考えられます。
主な症状
- 落ち着きなく動き回る(多動)
- 話が止まらない(多弁)
- 同じ行動を繰り返す(常同行動)
- 感情がコントロールできない(易刺激性、感情失禁)
生活上の問題
- ルート類の自己抜去
- 食べもの以外のものを口に入れる(異食)
- ベッドや車椅子からの転落の危険
- 能力に合わない行為による転倒の危険
- 徘徊による離院
- 暴言・暴力
- 性的行為
病棟などではセンサーマット、ミトン、抑制帯、4点柵などで仕方なく行動を抑制している場合が多いかと思います。
リハビリを進める上での問題
- 状態や状況の把握が不十分(失見当識)
- リハビリの内容が理解できない
- リハビリの内容が覚えられない(記憶障害)
- 興味がないものに注意が向かないまたは持続しない
- リハビリ拒否
- 取り繕い反応
これらの問題行動は前頭葉機能を高めることで抑制が働くと考えられます。
脱抑制への介入について
量的評価
- JCS
- GCS
客観的評価は難しく主観的評価が中心です。
覚醒レベルで評価しますが、開眼が始まったころからある程度動けるようになってからもと幅広いです。
質的評価
- 表情の変化:過剰な感情表出、ぼんやりした表情
- 態度:落ち着きがない
- 発話量:多い
- 発話内容:支離滅裂、同じ内容を繰り返す
- 言葉の理解:不十分
- 現状把握:不十分
- 注意機能:注意散漫で選択、持続不十分
- 判断力:2択でも不十分
以上の観察を神経心理ピラミッドに当てはめることで回復状況を把握します。
神経心理ピラミッドから考察すると問題行動が増えたのではなく、覚醒レベルが上がり回復していく過程にあると解釈できるかと思います。
また症状は異なりますが前頭葉の機能は発動性低下と同じ状態にあることがいえます。
明らかな問題行動がなくなってくると、取り繕いによりパーソナリティとして評価されているケースも多いように思います。
アプローチの考え方
手続き記憶、エピソード記憶、意味記憶といった長期記憶からのアプローチが認知過程を賦活しやすいと考えています。
物品の選択や会話の内容などは食品やお金などの辺縁系が働きやすいものや対象者の生育歴、趣向品といった馴染みのあるものが有効です。
刺激に対して反射的に反応できることをポジティブに捉え、物品や環境の探索、回想法などで気づきを増やします。
物品は正しく使用することよりも本人の意思で使用することで気づきにつながります。
間違った使い方でも危険でなければ、注意が持続する間そっと見守ることが重要です。
具体的なアプローチの例
①覚醒レベルが低い方
- 物品を手渡す(物品の探索)
- 車椅子での散歩(環境の探索)
②意思疎通が幾分可能な方
- 会話(回想法)
- 2つ以上の物品を提示して好き嫌い程度を判断(物品の選択)
- くしやペンなど身近な物品を使ってもらう(物品の使用、探索)
- 散歩をしながら環境や他者へ向ける(状況把握)
- 本人の趣向に合った粗大な作業(発散)
知覚へアプローチして本人の判断で言語または運動を行うことで認知過程が働きます。
まとめ
神経心理ピラミッドから脱抑制を考えると、行動を抑えることより覚醒レベルにアプローチすることの方が重要に思えるのではないでしょうか?
認知機能の回復段階を知ることで、対象者にやさしい介入ができればと思います。
小林雄一著書「看護師失格?」では、神経心理ピラミッドを元に認知機能が低下した方の介入について書かれています。