認知機能の評価・治療

神経心理ピラミッドから考える失語症のリハビリ

今回は言葉が思うように話せなくなる、言葉が理解できなくなるといった失語症について考えてみたいと思います。

バーバルなコミュニケーションが難しいので、意思疎通が不十分なままリハビリを進めていることも多いのではないかと思います。

リハビリではコミュニケーションが取れるようになることが目的になるので、内容も言葉の発声や理解に偏りやすいかもしれません。

失語症に関する知識を深めることで、言語以外の様々な視点が見つかればもっとやさしいリハビリが提供できるように思います。

失語症について

失語症とは

脳血管障害によって言語中枢が損傷することで、一度獲得された言語機能(音声:聞く・話す、文字:読む、書く)が障害をきたした状態とされています。

主には左側の脳の出血や梗塞により症状が現れ、右半身の麻痺を伴うことが多いです。

症状の現れ方は病気の場所や程度によって、全く会話ができない状態から多少会話ができる状態まで様々です。

言語のメカニズム

話を聞くときは、耳で聞いた音を左側頭葉(ウェルニッケ野)で意味付けすることで言語として認識します。

話すときは話したいという意思により左前頭葉(ブローカ野)が言葉の概念を運動に変換することで言葉として発せられます。

話すこと(ブローカ野)と聞くこと(ウェルニッケ野)は弓状束という神経の束で相互に連絡を取り合っています。

内言語と外言語

  • 内言語:頭の中で思考するための発声を伴わない言語
  • 外言語:自分の考えや意見を相手に伝えるために発生を伴う言語

言語は内言語から外言語に変換されると言われています。

構音障害が外言語の障害であるのに対して、失語症内言語の障害という考え方もあります。

言語の発達

3~ 4カ月 音の出る方を向く
9~11カ月 ダメがわかる
12~18カ月 簡単な指示がわかる

言語の表出

3~4カ月 笑う
7カ月 喃語
1歳~1歳半 有意語
2歳~2歳半 2、3語文
3歳 自分の名前が言える

正常発達から考えると言葉の理解ができても、意図を伝えるための表出ができるようになるまでには時間がかかることがわかるかと思います。

失語症の症状

①喚語困難

伝えたいことが言葉として出てこない状態です。失語症の代表的な症状で全般的に見られます。

思ったように言葉が出てこないため回りくどい言い方(迂言)になったりします。

②錯誤

言いたいこととは異なった言葉を言ってしまいます。

錯誤では言おうとしていることを推測できることが多いですが、推測できないぐらい言葉が変わることを新造語といいます。

③ジャーゴン

わけのわからない発話という意味で、話してはいるけど相手が理解できる言葉にならない状態です。

④言語理解

言葉は聞こえていても言葉の意味が理解できない状態です。

全く理解できない状態、単語であれば理解できる状態、短い文章ぐらいは理解できる状態など状態は様々です。

言葉と同様にジェスチャーの理解も難しくなると言われています。

⑤失読

文字は見えていても文字の意味が理解できなかったり読み間違えたりして思うように文字が読めない状態です。

⑥失書

文字が思い出せなかったり書き間違えたりして思うように文字が書けなくなった状態です。

失語症の分類

失語症の分類は複数存在しますが、よく使用されるのは以下の4タイプになります。

①全失語

話す、聞く、復唱、読む、書く、計算の全てが重度に障害された状態です。

残語といい特定の単語のみ表出できることはありますが、その場に適した表出はできません。

②ブローカ失語(運動性失語)

話していることはある程度理解できますが、思うように話すことができない状態です。

③ウェルニッケ失語(感覚性失語)

聞いた言葉の意味を理解できない状態です。

話すことはできますが、相手の言葉が理解できないので会話が噛み合わなくなります。

④健忘失語(失名詞失語)

話の理解は比較的良好ですが、喚語困難が著明な状態です。

迂言や「あれ」「これ」といった代名詞により意図を伝えることはある程度できます。

併発することが多い症状

①失行

やりたいことの手順がわからなくなり思うようにできない。道具を間違って使うといった状態です。

失語で言語の概念がわからなくなるのと同じように、行為や道具の概念がわからなくなります。

これは行為や道具の使用は、言語と同じように内言語を形成して出力するためです。

新しい物事や動作を覚えることは新しい概念になるため、特に苦手になります。

②注意障害

覚醒レベルが不十分な時期は注意を向けることが出来ない(選択)、一つの事に集中できない(持続)といった状態がみられます。

③失算

病前はできていたような簡単な計算ができなくなった状態です。

失語症への介入について

量的評価

①標準失語症検査(SLTA)

失語症の有無、重症度、失語タイプの鑑別を行います。

聴覚的理解、自発話、復唱、語想起、音読、読解、自発書字、書き取り、計算の計26の下位検査があり検査に時間を要します。

②WAB失語症検査

言語機能の総合的な検査を行い失語症の分類、重症度を評価します。

自発話、言語理解、復唱、呼称、読み、書字、行為、構成の8つの主項目の下に38の下位項目があり検査に時間を要します。

③言語障害スクリーニングテスト(STAD)

失語症、構音障害、その他高次脳機能障害を10分程度で評価できます。

④レーヴン色彩マトリックス検査

非言語性の評価法で認知機能を評価します。

質的評価

①言語理解

質問に対して発話での応答が少ないので、取り繕いに注意して言語理解などを正しく評価する必要があります。

言語と行為が不可分なので失行の程度から言語理解(内言語)を評価します。

ハサミ、ペンなど昔から使い慣れた道具の使用、整容や更衣など日常的な行為がどの程度できるかを評価します。

②前頭葉機能の評価

神経心理ピラミッドから前頭葉機能の状態を考えると失語症が表面化する発動性、抑制から言語が今ひとつまとまらない情報処理能力になるかと考えています。

言語の評価の前に情報処理の土台となる発動性と注意機能を評価して改善する必要あります。

アプローチについて

苦手な言語に直接介入することはストレスや疲労を強く与える可能性が高いので注意が必要です。

失語症のリハビリが内言語を構築することが目的と考えれば外言語にこだわる必要はありません。

言語機能はもともとの得意不得意、好き嫌いの個人差が大きいので相手に合わせた介入も重要になります。

失語症の改善には、以下の3つを統合して考えます。

  1. 損傷された左半球言語領域の回復
  2. 左半球の残存領域における機能の再構築
  3. 右半球による代償機能のための右半球皮質の賦活

発語が難しい方へのアプローチ

エピソード記憶アフォーダンス理論を使用して知覚から認知機能を賦活します。

  • 日常的な行為
  • 使い慣れている道具の使用
  • 馴染みのある場所や季節を感じるような景色や写真を見る

例えばですが昔の写真を見ることで自らアルバムを開く、写真を指さすなどの反応があれば何らかの意味付け(内言語の構築)ができてきたことになります。

コミュニケーションでは言葉を話すことと聞いた情報の保存が並列的に処理する能力が必要になるので、ワーキングメモリーの活性化が最終的な目標になります。

介入中は意思疎通が難しいことからコミュニケーションが少なくなりがちですが、セラピストに何かを伝えたいと思ってもらえるような、信頼関係の構築が最も重要に思います。

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まとめ

神経心理ピラミッドから失語症を考えると、もっとも苦手な言語で情報処理の練習を実施するより、言語以外で注意や情報処理の機能を高めるアプローチのほうが有効に思えます。

認知機能の回復段階を知ることで、対象者にやさしい介入ができるように思います。

小林雄一著書「看護師失格?」では、神経心理ピラミッドを基に認知機能が低下した方への介入が書かれています。

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