取り繕い反応を理解する|認知機能低下の方への評価とやさしい関わり
認知症や高次脳機能障害の方に関わる機会は多いかと思いますが、取り繕い反応を正しく理解できていますか?
観察が不十分なまま、本人の訴えを鵜吞みにしてしまい、取り繕い反応に気づかないまま評価や介入を進めてしまった経験はないでしょうか。
認知機能の低下は、
HDS-RやMMSEなどの数値的評価だけで把握することは難しく、
日常場面の観察を含めた多角的な視点が必要になります。
今回は、認知機能低下の方によく見られる取り繕い反応の評価とアプローチについて考えてみたいと思います。
取り繕い反応について
取り繕い反応とは、認知症や高次脳機能障害の方が生活上さまざまな問題を抱えているにもかかわらず、
忘れていることや分からないことを、分かっているかのように振る舞う態度のことです。
これは、本人が意識的にごまかしているわけではありません。
多くの場合、対人関係を円滑に保つために無意識に働く防衛的な反応と考えられます。
もしセラピストがこの反応に気付かなかった場合、
- 実際の認知機能よりも高く評価してしまう
- リハビリ内容が本人の状態に合わない
- 家族や介護者へ誤った情報提供をしてしまう
といった問題につながる可能性があります。
取り繕い反応の具体例
実際の臨床では、以下のような会話で見られることがあります。
記憶に関する質問
th)お昼はどんなものを食べましたか?
Cl)何食べたかな、気にしてなかったね
→食べた内容だけでなく、食べたかどうか自体が曖昧な応答です。
見当識に関する質問
th)今日は何曜日かわかりますか?
Cl)毎日同じ生活だからわからんなるね
→答えを回避し、それ以上考えなくてもよい形で会話を終わらせる応答です。
なぜ取り繕い反応に気づくことが重要か
取り繕い反応に気づかないまま退院支援を行った場合、
- 「できると思っていたことができない」
- 「一人で生活できると思っていたが困難だった」
といった問題が生じやすくなります。
これは、対象者本人だけでなく、家族や介護者の負担増加にもつながります。
そのため、
数値評価+観察
の両方が重要になります。
取り繕い反応の評価
量的評価だけでは不十分
取り繕い反応がある方へHDS-Rのような量的評価を実施しようとしても、
「そういうのは好きじゃない」
など、評価に協力してもらえないことがあります。
取り繕い反応は、自尊心を守るための反応であるため、
自尊心を傷つけない関わりが重要になります。
MCI(軽度認知障害)チェックリスト
取り繕い反応は、初期の認知症で見られることが多いため、以下のような観察も有効です。
□ 何回も同じことを聞いたり話したりする
□ しまい忘れや置き忘れが目立つ
□ 冷蔵庫に同じ食材がいくつも入っている
□ 冷蔵庫に入れるはずのない物が入っている
□ 日にちや曜日、月や季節を間違えることがある
□ 子供や孫の名前を混同する
□ 約束の時間や場所を間違える
□ 朝話したことを昼には忘れている
□ 趣味への関心が低下している
□ 会話が噛み合わない
観察で見る3つのポイント
取り繕い反応は、以下の認知過程と関連して観察すると理解しやすくなります。
①発動性の問題
●自発性低下
- 自ら話そうとしない
- 当たり障りのない応答が多い
- 深く聞くと答えられない
●脱抑制
- よく話すがまとまりがない
- 非現実的な内容が含まれる
- 話をはぐらかすことが多い
②注意力・集中力
- 同じ話が繰り返される
- 自身の問題より他者を心配する
- 話題の切り替えが難しい
③情報処理能力
- 思い出すまでに時間がかかる
- 受け答えが遅い
- 会話のバリエーションが少ない
取り繕い反応に気づけなかった一例【よくある臨床像】
症例:80代男性、脳梗塞後
病棟での会話では、「家のことは全部できる」と話していました。
しかし家族からは、
- 同じ質問を繰り返す
- ガスの消し忘れがある
- 約束を忘れる
といった訴えがありました。
退院前に調理動作を確認すると、
- 手順が途中で止まる
- 同じ工程を繰り返す
といった問題が明らかになりました。
このように、言葉だけでなく行動で確認することが重要になります。
取り繕い反応への介入の基本
介入の基本は、取り繕いをしなくてもよい関係を構築することです。
①発動性への介入
●自発性低下
心的エネルギーが低下した状態と捉え、
- 無理に話を引き出さない
- 心地よい活動を共有する
ことが大切です。
例:
- 日光を浴びる
- 外気に触れる
- 好きな音楽を聴く
こうした活動の中で、安心できる関係を構築していきます。
●脱抑制
- 話を途中で止めない
- 落ち着くまで待つ
- 不適切な行動は否定せず修正する
批判しない姿勢が非常に重要です。
②注意力への介入
- 無理に集中させない
- 本人の興味のある話題を共有する
興味のあることから注意が持続しやすくなります。
③情報処理への介入
- 十分な時間を確保する
- 途中で答えを急がせない
待つ姿勢が信頼関係を築く重要な要素になります。
関わりで大切な3つの姿勢
取り繕い反応への関わりでは、特に次の3つが重要です。
- 否定しない
- 急がせない
- できている部分を認める
この姿勢が、安心して失敗できる環境を作ります。
まとめ
取り繕い反応に気づくためには、認知機能を多角的に評価する視点が必要です。
もしこの反応に気づかないまま退院すると、
「できると思っていたことができない」
という問題が生じ、対象者本人や家族が困ることにつながります。
取り繕い反応を改善するためには、
- 自尊心を傷つけない
- 安心できる関係を作る
- 本人の気づきを支援する
といった関わりが重要になります。
「できているかどうか」ではなく、
「安心してできないと言える関係」
を作ることが、取り繕い反応への最初の一歩になるのではないでしょうか。
