認知症や高次脳機能障害の方に関わる機会は多いかと思いますが、取り繕い反応を理解できていますか?
観察が不十分なまま、本人の訴えを鵜吞みにして取り繕い反応に気づいていないことはないですか?
認知機能の低下をHDS-RやMMSEなどの数値的な評価だけで把握することは難しく多角的な視点が必要です。
今回は認知機能低下の方によく見られる取り繕い反応の評価とアプローチについて考えてみたいと思います。
取り繕い反応について
取り繕い反応とは
認知症や高次脳機能障害の方が生活上様々な問題を抱えているにもかかわらず、上手に場に合わせて、忘れていることを覚えているかのように振る舞う態度のことです。
本人は意識的にごまかしているわけではなく、対人関係を円滑にするために無意識に働く機能です。
セラピストがこの反応に気付かなかった場合、実際の認知機能よりも高く評価をしてしまいます。
そのためリハビリ内容が本人の状態に合っていなかったり、家族や介護者に正しく情報提供されなかったりと本人へ負担を与えることになりかねません。
取り繕い反応の例
①記憶に関する質問
th)お昼はどんなものを食べましたか?
Cl)何食べたかな、気にしてなかったね
→食べたかどうかも曖昧な応答
②見当識に関する質問
th)今日は何曜日かわかりますか?
Cl)毎日同じ生活だからわからんなるね
→それ以上考えなくていいような応答
取り繕い反応の評価
取り繕い反応がある方へHDS-Rのような量的評価を実施しようとした場合、「そういうのは好きじゃない」など付き合ってもらえないことが多いかと思います。
取り繕い反応は自尊心を保つための振る舞いであるため、自尊心を傷つけないように評価を実施することが望ましいです。
MCI(軽度認知障害)チェックリスト
取り繕い反応は初期のアルツハイマー病や脳血管性認知症で見られることが多いので、MCIのチェックリストをもとに観察することも有効です。
□ 何回も同じことを聞いたり話したりする
□ しまい忘れや置忘れが目立つ
□ 冷蔵庫に同じ食材がいくつも入っている
□ 冷蔵庫に入れるはずのないものがはいっている
□ 日にちや曜日、月や季節を間違えることがある
□ 子供や孫の名前を混同する
□ 約束の時間や待ち合わせ場所をよく間違える、または忘れる
□ 朝、話したことを昼には忘れている
□ 趣味や好きだったことに興味や関心を示さなくなった
□ 会話が噛み合わない、話が通じない
神経心理ピラミッドの活用
神経心理ピラミッドはRusk(ニューヨーク大学医療センターの脳損傷通院プログラム)で使用されている指標で、認知機能を中心とした心理学的機能を階層的に捉えたものです。
私は取り繕い反応を基礎レベルの部分の観察で評価します。
①発動性・抑制
●自発性低下
- 自ら話したり行動したりしない
- 質問に当たり障りのない応答しかしない
- 突っ込んだ質問になると答えられないことが多い
●脱抑制
- 自らよく話すが話のまとまりが不十分
- 内容に非現実的なことが含まれる
- 質問をはぐらかしたり答えられなかったりする
②注意力・集中力
- 同じような話が多い
- 自身に問題を抱えているにもかかわらず他者の方を心配する
③情報処理能力
- 仕事や趣味のことなど関心のある出来事を思い出すのにも時間がかかる
- 受け答えに時間がかかる
- 会話のバリエーションが少ない
取り繕い反応への介入
介入の基本は取り繕いをしなくてもよい関係を構築することになります。
①発動性・抑制
●自発性低下
心的エネルギーが枯渇した状態と捉え、会話や活動で不必要にエネルギーを消費しない方がよいかと思います。
外気や日光を浴びるなどの心地よい活動の中で時間を共有して、心的エネルギーを蓄えながら信頼関係を構築するのが望ましいと考えます。
●脱抑制
本人がある程度落ち着くまで話を聞く、活動を適切な範囲で見守ることで信頼関係を構築します。
不適切な行動は指摘しても批判しないことが大切です。
②注意力・集中力
無理に集中させたり注意を向けたりせず、本人の関心のあることを共有することで信頼関係を構築します。
周囲や他者など本人の興味のあることから注意が持続していくことが望ましいと考えます。
③情報処理能力
発話や行為に時間がかかっても本人の意思を尊重して待つ姿勢で関わることで信頼関係を構築します。
まとめ
取り繕い反応に気づくには、認知機能の状態を多角的に正しく評価する必要があります。
これに気づかず退院するとできると思っていたことができず、対象者とその家族が困ってしまうことになります。
取り繕い反応を改善するには、自尊心を傷つけず、自ら気づいていけるような関わりが重要に思います。