今回は脳卒中後に自発的な発話や表情の変化がみられないといった意欲・発動性低下の方へのリハビリの進め方について考えてみたいと思います。
対象者の反応が乏しく訴えもないため、強引にリハビリを進めやすいように思いますが、状態を把握することで今より優しく接していけるかもしれません。
意欲・発動性低下について
意欲・発動性低下とは
何事にも意欲が持てず自ら行動を起こすことなく一日中ボーっとして過ごしているような状態です。
意欲は前頭葉(前頭前野)の重要な働きの一つであることから、前頭葉機能が低下した状態にあることが考えられます。
主な症状
- 無気力
- 無関心
- 無表情
生活上の問題
- 日中臥床傾向
- 尿意便意など生活に必要なことへの訴えがない
病棟や施設では危険行動がないため生活状況を問題視されないことがあるかもしれません。
リハビリを進める上での問題
- 声掛けしても言語・運動ともに反応が乏しい
- 訴えがないためニーズが分かりにくい
- 表情の変化が乏しく感情が読み取りにくい
- 取り繕い反応
強引な介入をしていると発動性の向上とともにリハビリやケアへの拒否が起こる可能性が高いです。
意欲・発動性への介入について
量的評価
- JCS
- GCS
客観的評価は難しく主観的評価が中心です。
質的評価
- 表情の変化:感情表出が極端に少ない、ぼんやりした表情
- 態度:自発的には動かない
- 発話量:自発的にはない、はい・いいえや好き嫌い程度の応答
- 言葉の理解:不十分
- 現状把握:不十分
- 注意機能:反射的にも注意が向きにくい
- 判断力:2択でも不十分
以上の観察を神経心理ピラミッドに当てはめることで回復状況を把握します。
神経心理ピラミッドから考察すると土台となる精神的・心的エネルギーがさらに増えることで、周囲への注意・関心が高まってくると考えられます。
表向きの症状は異なりますが前頭葉の機能は脱抑制と同じ状態にあると思われます。
身体機能に問題がない場合、ただモチベーションが低いように見えるので正しい評価が必要です。
アプローチの考え方
手続き記憶、エピソード記憶、意味記憶といった長期記憶からのアプローチが認知過程を賦活しやすいと考えています。
物品の選択や会話の内容などは食品やお金などの辺縁系が働きやすいものや対象者の生育歴、趣向品といった馴染みのあるものが有効です。
反応が乏しくても自らの意思で反応が増えるようにじっと待つことが重要です。
脳への快刺激により精神的・心的エネルギーが増えてくるとイメージするといいかもしれません。
具体的なアプローチの例
①覚醒レベルが低い
- 物品を手に持たせて反応を待つ(物品の探索)
- 車椅子での散歩(環境の探索)
- 立位で景色を見るなど(脳幹網様体の賦活)
②意思疎通が幾分可能な方
注意力・集中力の段階に近付いている状態です。
- 本人や馴染みのある場所などの写真を見せる(回想)
- 2つ以上の物品を提示して好き嫌い程度を判断(物品の選択)
- くしやペンなど身近な物品を手渡し反応を待つ(物品の使用、探索)
- 散歩をしながら環境や他者へ注意を向ける(状況把握)
- 本人の趣向に合った軽作業(意欲向上)
知覚へアプローチして、本人の判断により言語または運動を行うことで認知機能が働きます。
まとめ
神経心理ピラミッドをもとに意欲・発動性を考えると、何か活動をさせようとするよりも覚醒レベルにアプローチすることの方が重要に思えるのではないでしょうか?
認知機能の回復段階を知ることで、対象者にやさしい介入ができるように思います。
小林雄一著書「看護師失格?」では、神経心理ピラミッドを基に認知機能が低下した方への介入が書かれています。