今回はHDS‐R、MMSEといった認知機能検査の臨床での活用方法について考えてみたいと思います。
認知機能検査を実施した場合、点数だけで経過を見ていることが多いのではないでしょうか?
検査の内容まで理解することで、リハビリの内容もより効果的になるかもしれません。
長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)
1974年に精神科医の長谷川和夫先生が開発した簡易知能検査で、1991年に現在の改訂版になっています。
カットオフポイント:20点以下/30点満点
自己の見当識
本人に関する質問。(1点)
- お歳はいくつですか?
結果の解釈
- 自己認識の程度
時間の見当識
時間に関する質問。(各1点)
- 今日は何年ですか?
- 何月ですか?
- 何日ですか?
- 何曜日ですか?
結果の解釈
- 時間への関心の程度
場所の見当識
- 私たちが今いるところはどこですか?(2点)
(5秒おいて答えられない場合、選択肢を提示)
- 家ですか?病院ですか?施設ですか?(1点)
結果の解釈
- 周囲への関心の程度
3つの言葉の記銘
これから言う3つの言葉を言ってみてください。またあとで聞きますのでよく覚えておいてください。(各1点)
(以下の系列のいずれか一つで、採用した方に○をつけておく)
- 1:a)桜 b)猫 c)電車
- 2:a)梅 b)犬 c)自動車
結果の解釈
- 短期記憶:単語が覚えられない
計算問題
100から7をくり返し引いてください。(各1点)
- 正解:93、86
結果の解釈
- ワーキングメモリー:計算ができない、時間がかかる
- 記憶の保持:どの数字から7を引くかを忘れる
数字の逆唱
これから言う数字を逆から言ってください。(各1点)
- 6-8-2
- 3-5-2-9
(3桁逆唱に失敗したら打ち切る。)
結果の解釈
- 短期記憶:数字が覚えられない、逆から読もうとすると忘れる
- 言語理解:指示が理解できない
3つの言葉の遅延再生
先ほど覚えてもらった3つの言葉(植物、動物、乗り物)をもう一度言ってみて下さい。
- 自発的な回答(2点)
- ヒントを与えて回答(1点)
結果の解釈
- 記憶の保持:ヒントがあっても思い出せない
- 記憶の想起:ヒントがあれば思い出せる、思い出すのに時間がかかる
5つの物品記銘
これから5つの物品を見せます。それを隠しますので何があったか言って下さい。(各1点)
結果の解釈
- 視覚性短期記憶:見たものを覚えられない、思い出せない
- 視覚失認:物品が何かわからない
- 喚語困難:物品は覚えているが名称が出てこない
言葉流暢性課題
知ってる野菜の名前をできるだけ多く言ってください。(各1点)
結果の解釈
- 長期記憶:思い出すのに時間がかかる、少ししか思い出せない
- 情報処理:野菜ではないものを言う、同じ野菜を何度も言う
ミニメンタルステート検査(MMSE)
1975年に米国のフォルスタイン夫妻が開発した知能検査で、2006年に杉下守弘先生によって日本語版が作成されました。
カットオフポイント:23点以下/30点満点
時間の見当識
時間に関する質問。(各1点)
- 今年は何日ですか?
- 今年は何年ですか?
- 今の季節は何ですか?
- 今日は何曜日ですか?
- 今月は何月ですか?
結果の解釈
- 時間への関心の程度
場所の見当識
場所に関する質問。(各1点)
- ここは何県ですか?
- ここは何市ですか?
- ここはどこ(何病院)ですか?
- ここは何階ですか?
- ここは何地方ですか?
結果の解釈
- 周囲への関心の程度
3つの言葉の記銘
今から言う言葉を覚えて繰り返し言ってください。(各1点)
- 桜、猫、電車
今の言葉は後から聞くので覚えておいてください。
結果の解釈
- 短期記憶:単語が覚えられない
計算問題
100から7をくり返し引いてください。(各1点)
- 正解:93、86、79、72、65
結果の解釈
- ワーキングメモリー:計算ができない、時間がかかる
- 記憶の保持:どの数字から7を引くかを忘れる
3つの言葉の遅延再生
さっき言った3つの言葉は何でしたか?(各1点)
- 正解:桜、猫、電車
結果の解釈
- 記憶の保持:ヒントがあっても思い出せない
- 記憶の想起:ヒントがあれば思い出せる、思い出すのに時間がかかる
物品呼称
物品を提示してそれが何かを答えてもらう。(各1点)
- 時計が分かる
- 鉛筆が分かる
結果の解釈
- 記憶の想起:名称が出てこない、思い出すのに時間がかかる
- 視覚失認:物品が分からない
- 喚語困難、錯誤:物品の名称が正しく言葉にならない
文章復唱
今から言う言葉を覚えてくり返し言ってください。(1点)
- みんなで力をあわせて綱を引きます。
結果の解釈
- 短期記憶:文章が覚えられない
口頭による3段階命令
今から言う通りにしてください。(各1点)
- 右手にこの紙を持ってください。
- それを半分に折りたたんでください。
- そして私に渡してください。
結果の解釈
- 言語理解:指示が理解できない
- 失行:指示は理解できるが動作を間違う
文章理解
この文を読んでこの通りにしてください。(1点)
- 「目を閉じてください」
結果の解釈
- 言語理解(失読):書いている文章が理解できない
文章構成
ここに何か文章を書いてください。どんな文章でもかまいません。(1点)
結果の解釈
- 構成能力:言葉が上手く組み立てられない
- 失書:運動機能に問題はないが文字が書けない
図形模写
この図形を正確にそのまま書き写してください。(1点)
結果の解釈
- 意味記憶:ペンの使い方がわからない
- 失行:書き方がわからない、上手く書けない
- 視空間認知:図形の見落とし
まとめ
DSM-5(大神経認知機能障害の診断基準の一部)での認知症の診断は、最低1つの認知ドメインの明らかな低下がある場合とされています。
- 記憶と学習
- 言語
- 知覚運動
- 複合的注意
- 実行機能
- 社会認知
MMSEでは3段階命令、文章構成、図形の模写で知覚運動や実行機能を評価できますが、その分HDS-Rより難易度が高く思います。
個人的な意見ですがHDS-Rがある程度改善してから、MMSEに切り替えて知覚運動、実行機能まで評価する方が対象者の負担が少ないかと思いました。
普段よく使う検査の理解を深めることで、効果的なリハビリにつながればと思います。