HDS-R・MMSEの見方が変わる|各項目の理解とリハビリへの活かし方
今回は、HDS-R(長谷川式簡易知能評価スケール)やMMSE(ミニメンタルステート検査)といった、臨床でよく使用される認知機能検査の活用方法について考えてみたいと思います。
認知機能検査を実施した際、点数だけで経過を見ているということは多いのではないでしょうか。
しかし、検査の各項目の意味や背景となる機能まで理解することで、
- なぜできないのか
- どの機能が低下しているのか
- どのような介入が必要なのか
が明確になり、リハビリの質が大きく変わる可能性があります。
HDS-Rの理解と臨床での活用
HDS-R(長谷川式簡易知能評価スケール)は、1974年に精神科医の長谷川和夫先生が開発した簡易知能検査で、1991年に現在の改訂版になっています。
カットオフポイント:20点以下(30点満点)
HDS-Rは比較的実施しやすく、高齢者や初期評価に適した検査です。
①自己の見当識
質問例
お歳はいくつですか?
評価している機能
自己認識
自己に対する注意
結果の解釈
- 年齢が答えられない
→ 自己認識の低下
→ 記憶だけでなく注意障害の可能性
リハビリへの活用
- 名前や年齢を毎日確認する習慣作り
- 日課表の活用
- 自己紹介を取り入れたコミュニケーション練習
②時間の見当識
質問例
- 今日は何年ですか?
- 何月ですか?
- 何日ですか?
- 何曜日ですか?
評価している機能
- 時間への関心
- 時間的な見当識
結果の解釈
時間の誤答は、時間への注意低下を示している場合があります。
リハビリへの活用
- カレンダーの活用
- 今日の予定確認
- 朝のルーティンの固定化
③場所の見当識
質問例
私たちが今いるところはどこですか?
評価している機能
- 周囲環境への関心
- 空間的見当識
結果の解釈
- 病院なのに「家」と答える
→ 環境認識の低下
→ 不安や徘徊のリスク
リハビリへの活用
- 環境内の目印設置
- 病棟案内の反復練習
- 写真や地図の活用
④3つの言葉の記銘(即時記憶)
例
桜・猫・電車
評価している機能
- 短期記憶
- 注意機能
結果の解釈
単語が覚えられない場合、
- 注意低下
- 短期記憶低下
が疑われます。
リハビリへの活用
- 単語の復唱練習
- 視覚情報との併用
- 繰り返し学習
⑤計算問題(100−7)
評価している機能
- ワーキングメモリー
- 注意機能
結果の解釈
- 計算できない
- 時間がかかる
- 途中で止まる
→ ワーキングメモリー低下の可能性
リハビリへの活用
- 簡単な暗算
- 数唱
- 二重課題トレーニング
⑥数字の逆唱
評価している機能
- 短期記憶
- 注意制御
結果の解釈
逆に言えない場合、
- 情報保持の弱さ
- 注意の切り替え困難
が疑われます。
リハビリへの活用
- 数唱訓練
- 順唱→逆唱の段階的練習
⑦3つの言葉の遅延再生
評価している機能
- 記憶保持
- 記憶想起
結果の解釈
- ヒントありで思い出せる
→ 想起障害 - ヒントでも思い出せない
→ 記憶保持障害
リハビリへの活用
ここは最も重要な項目の一つです。
- 想起障害 → 手がかり提示
- 保持障害 → 繰り返し学習
といったように、介入方法が変わります。
⑧5つの物品記銘
評価している機能
- 視覚性短期記憶
- 物体認知
結果の解釈
- 名前が出ない
→ 喚語困難 - 物が分からない
→ 視覚失認
リハビリへの活用
- 物品名称訓練
- 視覚認知訓練
⑨言葉流暢性課題
例
野菜の名前をできるだけ多く言う
評価している機能
- 長期記憶
- 情報検索
- 実行機能
結果の解釈
- 少ない
- 同じものを繰り返す
→ 検索機能低下
リハビリへの活用
- カテゴリー想起訓練
- 言語訓練
MMSEの理解と臨床での活用
MMSE(ミニメンタルステート検査)は、1975年に米国のフォルスタイン夫妻が開発された認知機能検査です。
カットオフポイント:23点以下(30点満点)
HDS-Rと比較して、
- 実行機能
- 視空間機能
なども評価できる点が特徴です。
MMSEの臨床的なポイント
MMSEでは、運動・視空間・実行機能が評価できる項目が含まれています。
特に重要な項目を整理します。
①3段階命令
評価している機能
- 言語理解
- 失行
- 注意
臨床のポイント
理解しているが動作を間違う場合、
→ 失行の可能性
が考えられます。
②文章構成
評価している機能
- 言語構成
- 思考整理
- 実行機能
臨床のポイント
- 単語のみ
- 文にならない
→ 実行機能低下の可能性
③図形模写

評価している機能
- 視空間認知
- 構成能力
- 失行
臨床のポイント
この項目は、半側空間無視の発見にも非常に有効です。
HDS-RとMMSEの使い分け(臨床的視点)
DSM-5では、認知症は以下の認知ドメインの低下によって診断されます。
- 記憶と学習
- 言語
- 知覚運動
- 複合的注意
- 実行機能
- 社会認知
この視点から見ると、
HDS-R:基礎的な認知機能の評価
MMSE:より高次の機能の評価
という位置づけができます。
臨床での私の使い方
個人的には、
① HDS-Rで基礎機能を確認
② 改善後にMMSEへ移行
という流れが、対象者の負担が少ないと感じています。
特に、
- 高齢者
- 疲労しやすい方
- 注意障害が強い方
には有効です。
点数だけで終わらせないことが重要
例えば、
同じ20点でも
- 記憶が低下している人
- 注意が低下している人
では、リハビリ内容は全く異なります。
つまり、点数ではなく「どこができないか」を見ることが、臨床では非常に重要です。
リハビリに活かすための視点
検査結果を見る際は、次の3つを意識すると臨床で活きてきます。
① どの機能が低下しているか
② なぜできないのか
③ どうすればできるようになるか
この3点を考えることで、評価がそのまま治療につながるようになります。
まとめ
HDS-RやMMSEは、単なる点数評価のための検査ではありません。
各項目の意味を理解することで、
- 認知機能のどこが低下しているのか
- どのような支援が必要なのか
- どんなリハビリが有効なのか
が明確になります。
普段よく使う検査こそ、「何を見ているのか」を理解することが大切です。
その理解が、より効果的なリハビリにつながると感じています。
