今回は高齢者の自動車事故の原因と、自動車運転に必要な技能を改善するリハビリについてお伝えいたします。
高齢者の自動車事故について
警視庁が2019年に発表した資料では高齢運転者の交通事故の要因として、脇見や考え事をしていたことによる発見の遅れが最も多いです。

高齢運転者は、自分で安全運転を心掛けているつもりでも、他人から見ると安全運転とはいえないことがあると言われています。
これには加齢に伴う筋力や柔軟性といった身体機能の低下や記憶や注意といった認知機能の低下が深く関係しています。

自動車運転に必要な機能について
①視覚能力(動体視力、深視力)

自動車運転中は動体視力、遠近感や立体感を捉える深視力が保たれることで車、人、物との距離を適切に認識します。
運転時は、周辺の景色の流れや見え方の変化を正しく認識することで走行中に障害物を回避したり、信号や停止線に適切な距離から減速して止まったりできます。

眼球は頚部や体幹とも協調して動くので身体機能の低下や不良な姿勢でも視野が狭くなり奥行きを感じにくくなったり、動体視力が低下したりする原因になります。
※70歳以上のドライバーは免許更新時に動体視力の検査が必須になっています。
②反応速度
運転操作はハンドルを傾ける、アクセルやブレーキを踏む、各種ランプを使用するなど単純ですが、状況によっては即座に判断して適切に操作を行わなければ事故につながることがあります。
反応速度は加齢とともに低下するなど認知機能障害の予兆の一つとも言われており、情報を処理して判断するまでに時間がかかるようになります。
また認知機能だけではなく身体の柔軟性低下や筋力低下、不良な姿勢でも運動がぎこちなくなり反応の遅れにつながります。
③注意機能(集中力、注意力)
運転中は正面、左右、バックミラー、サイドミラーなど様々なところに注意を向けながら運転を行います。
更には自転車、歩行者、自動車など注意するべき優先順位をつけて気を付けています。
自動車運転では様々な認知機能を使うため頭が疲れやすく、集中力が続かない場合は運転中にボーっとしたり注意が散漫になることがあります。
④遂行機能(計画性、危険予測)
自動車運転では目的地に向かうためにどの道を通ると安全で早く着くか、目的地に着いたらどこに車を止めるかなどを計画しています。
また前方に見えた自転車がどれぐらいで交差点に入るか、見通しの悪いところで子供が飛び出してこないかなど状況に応じて危険を予測することで急な対応を少なくしています。
初めて行く場所や慣れない道では記憶に頼れないため、計画や危険予測がより高度です。
自動車運転のセルフチェック
身体機能、認知機能でもっとも大切なのは自分の苦手なことを自覚することです。
家族がチェックすべき運転行動
高知大学の上村医師によって作成されたチェックリストです。10項目のうち1つでも当てはまると要注意とされています。
□行き先・目的地を運転中に忘れる
□中央線・センターラインの不注意がある
□車庫・枠入れの失敗
□道路標識・信号機の理解の低下
□速度制限の認識・速度の維持能力の低下
□交通環境への注意力維持の低下
□運転操作(アクセル・ブレーキ・ギア操作など)能力の低下
□自動車メンテナンス(ガソリン・オイルなど)把握・管理能力の低下
□他の交通者(歩行者・自転車など)への注意維持の低下
□車間距離の維持能力の低下
運転時認知障害早期発見チェックリスト
日本認知症予防学会、鳥取大学医学部教授の浦上先生監修のチェックリストです。30項目のうち5つ以上当てはまると要注意とされています。
運転時認知障害早期発見チェックリストは警視庁のホームページをご参照ください。
自宅でできるリハビリ
首と体を捻る運動
首や体の筋力や柔軟性を改善することで視野を広げ、後方や左右の確認をスムーズにします。

- 椅子の背もたれの後ろに手を回し、後ろを向くようにできるだけ首と体を捻る
- しっかり首と体を捻ったら30秒キープ
- 左右交互に3セットを目安に行う
肩を回す運動
腕の筋力と肩の柔軟性を改善し、ハンドル操作をスムーズにします。

- 両手の指先を肩に付けた状態から開始
- ゆっくり後ろに10回肩を回す
- ゆっくり前に10回肩を回す
- 交互に3セットを目安に行う
足の運動
股関節や膝、足首の筋力や柔軟性を改善することでアクセルとブレーキの操作をスムーズにします。
もも上げ

- 姿勢が後ろに崩れないように太ももを挙げる
- 太ももを挙げたまま10秒キープ
- 左右交互に3セットを目安に行う
足首の運動

- 足をしっかり床に付けた状態でつま先を挙げる
- つま先を挙げたまま10秒キープ
- 左右交互に3セットを目安に行う
注意・遂行機能の改善
散歩

見通しの悪い交差点での危険予測や危険と思われる場所を見つけるなど周囲を注意深く観察しながら散歩をします。
複雑図形の模写
※Rey複雑図形検査は記憶、遂行機能、構成、全般性注意の障害の有無を評価するために使われます。

複雑な図形を模写することで注意力や集中力を鍛えます。
最後まで書けない、見落としがある、図形の形が大きくことなるといった場合は認知機能の低下を疑います。
まとめ
自動車運転に必要な機能とそれを維持・改善するためのトレーニングについて簡単にまとめてみました。
もっと詳しく知りたい方のために、おすすめの書籍も紹介しておきます。