今回は左側がわかりにくくなるという半側空間無視について考えてみたいと思います。
一般的なアプローチは左へ注意を促すことかもしれませんが、知識を深めることで様々な視点が見つかるかもしれません。
半側空間無視について
半側空間無視とは
大脳半球病巣と反対側の刺激に対して、発見して報告したり、反応したり、その方向に向いたりすることが障害される病態
Heilman
主に右半球の脳血管障害後に起こり左の半側空間無視を呈します。
責任病巣は側頭葉、頭頂葉(下頭頂葉小葉)、後頭葉(上側頭回、角回)と言われていますが、それ以外の病巣でも症状が出現した例があることから、空間性注意の神経ネットワークの機能不全と考える方がよいかと思われます。
方向性注意機能は半球差があり、右半球は左右の空間性注意を司っているため、右半球の損傷で半側空間無視が強く見られると言われています。
併発することが多い症状
プッシャー症候群
麻痺側へ傾いた身体を正中に戻そうとすると、麻痺側の方向へ床や座面を手足で押し返す現象です。
頭頂葉の障害により感覚統合が不十分になり、正中の認識がずれるとも言われていますが、はっきりした原因は未解明のようです。
身体失認
身体の半分を自分のものと認識できない状態です。
着衣失行
衣服をうまくきることができなくなります。
生活上の問題
- 食事の際に左側を見落とす
- 左足を車椅子のフットレストに乗せない
- 車椅子の左のブレーキをかけ忘れる
- 移動時に左側の人やものにぶつかる
- 左の通路を見落とす
- 更衣では右半分しか着ない
- トイレではトイレットペーパーや水洗ボタンが左にあると分からない
- 左からの声掛けに反応しない
半側空間無視への介入について
量的評価
BIT行動性無視検査日本版
- 線分二等分試験
- 模写試験
- 線分抹消試験
- 描画試験
などが含まれています。
質的評価
姿勢、眼球・頸部の運動、麻痺側の状態、麻痺側からの刺激に対する反応を観察します。
- 顔や眼球が右へ向いた状態
- 自発的に左を向かない
- 声掛けをしても左を向かない
- 身体が左に傾く
- 麻痺側の手足が管理できていない
- 左からの声掛けや触刺激に反応が乏しい
注意機能の分類から半側空間無視は方向性注意の機能低下になります。
神経心理ピラミッドから考察すると覚醒レベルが低い状態では半側空間無視が表面化しないことから注意・集中力または発動性・抑制の階層に当てはまると考えられます。
アプローチの考え方
注意機能そのものよりも神経心理ピラミッドの下層にあたる自発性に対してアプローチをする方が有効だと考えています。
注意が向く範囲で自発的に取り組める又は反応できる課題を提示します。
課題の選定はなるべく本人の興味や関心が高いものの方が自発的に取り組みやすいです。
また、見て触れてという課題を遂行することは、頭頂葉での感覚統合が必要です。
自発的な活動により脳が賦活することで、右半球の広範囲にわたる空間性注意の神経ネットワークが働いてくる可能性が高いと仮説します。
まとめ
神経心理ピラミッドから半側空間無視を考えると、左に注意を促すことより、自ら左に関心が持てるように周囲への興味・関心が高まるアプローチを実施することの方が重要に思えるのではないでしょうか?
認知機能の回復段階を知ることで、対象者にやさしい介入ができるように思います。
小林雄一著書「看護師失格?」では、神経心理ピラミッドを基に認知機能が低下した方への介入が書かれています。