ゴールが変わればリハビリが変わる|5W1Hで考える目標設定の実践方法
リハビリの目標を、患者様としっかり共有できていますか?
目標を決めず、患者様が苦手な課題だけに着目していないでしょうか。
目標がない場合、近づいていくゴールがなく、
毎日苦手な課題を繰り返すだけのリハビリになりかねません。
最も苦手なことは、長期的に達成できるように段階付けて考える必要があります。
そのためには、整合性のある短期目標と長期目標を設定しなければなりません。
この記事では、
- 目標設定の重要性
- 不適切な目標になる原因
- 5W1Hを使った設定方法
- 実際の症例をもとにした具体例
についてまとめていきます。
目標設定の重要性
リハビリにおいて目標設定は、治療内容の方向性を決める最も重要な要素です。
目標が明確であるほど、リハビリの内容や評価の基準も明確になります。
適切な目標設定の特徴
適切な目標設定ができていると、次のような変化が起こります。
- 生活や身体の変化を実感しやすい
- 状態に応じて実施するため対象者の負担が少ない
- 成功体験により意欲が上がる
- 改善している実感により希望が持てる
- セラピスト間での情報共有がしやすくなる
特に、成功体験の積み重ねはリハビリ継続の大きな力になります。
不適切な目標設定の特徴
一方、不適切な目標設定では次のような問題が起こります。
- 同じ内容のリハビリを繰り返し、変化に乏しい
- 苦手なことが中心となり対象者の負担が大きい
- 上手くいかないことが多く意欲が下がる
- 改善している実感が乏しく不安になる
目標設定が曖昧な場合、具体的な道筋がわからず、実施していることが本当に適しているかの判断も難しくなります。
目標設定をしても
「思うようにいかない」
「意味がない」
と感じるようになると、次第に目標設定そのものが形骸化し、内容の薄いリハビリになってしまいます。
不適切な目標になる原因
不適切な目標は、次のような理由で生じることが多いと感じます。
- 非現実的な高い目標を設定している
→ 回復がイメージできない - 筋力や麻痺の回復段階を考慮していない
→ 機能低下が目立つ苦手な課題から介入してしまう - セラピストが実施したい内容を優先している
→ 問題点が不明確なまま方法だけを繰り返してしまう
目標設定は、
「できてほしいこと」ではなく「できるようになる過程」
を考えることが重要です。
長期目標の設定
長期目標は、疾患特性、年齢、筋力や麻痺の回復などを考慮した
予後予測そのものになります。
現実的な長期目標を設定するには、ある程度の経験が必要になります。
しかし、長期目標を設定する作業を怠ると、何年経っても予後予測ができるようになりません。
不適切な長期目標になる原因
- 「目標は高い方がよい」と思い込んでいる
- 対象者の訴えを具体的なイメージなく目標にしている
- 疾患特性や年齢が考慮されていない
- 現状把握が不十分
- 身体機能とADL・IADLのつながりが理解できていない
麻痺や高次脳機能が劇的に回復することや、進行性疾患が回復することを前提とした目標は非現実的です。
長期目標は、現在のアプローチによって達成がイメージできる活動に設定します。
短期目標の設定
短期目標は、長期目標に向かう途中の「達成可能な小さな成功」です。
短期目標が適切であれば、長期目標に自然と近づいていきます。
不適切な短期目標になる原因
- すぐに達成できない高い目標になっている
- 長期目標との整合性がない
- 疾患特性や年齢が考慮されていない
- 現状把握が不十分
- 身体機能とADL・IADLのつながりが不明確
短期目標は、早期に達成できることが重要です。
私自身の経験では、
「100%達成できるイメージが持てる内容」
であることが理想的だと感じています。
5W1Hを使った目標設定
目標を明確にするために有効なのが、5W1Hです。
これは、意図を簡潔にまとめるための基本的なフレームワークです。
5W1Hの内容
- When:いつ(期限)
- Where:どこで(場所)
- Who:だれが(関係する人物)
- What:何を(課題・問題)
- Why:なぜ(理由)
- How:どのように(評価・治療方法・環境設定)
この6つを明確にすることで、曖昧な目標が具体的な行動に変わります。
さらに、
- 筋力(MMT)
- バランス(FRTなど)
- ブルンストロームステージ
など、継続して測定する数値を決めておくことで、短期目標と長期目標の整合性が保たれやすくなります。
目標設定の具体例
症例:A様の全体像
70歳代女性。
転倒により左大腿骨頸部骨折を受傷。
人工骨頭置換術を施行し、術後1ヶ月。
現在は歩行器歩行で病棟内自立。
独居で、受傷前は自宅から200m離れたスーパーへ独歩で買い物に行っていた。
長期目標(例)
When:2ヶ月
Where:院内・病院敷地内
Who:対象者
What:患側下肢で片脚立位10秒可能となり、屋内外を独歩200m安定して歩行できる
Why:退院後、自宅から200m離れたスーパーへ買い物に行くため
How:体幹筋・患側股関節周囲筋の筋力強化を行い、片脚立位能力を向上させる
長期目標のポイント
- 生活と直結している
- 数値化されている
- 達成後の生活が想像できる
短期目標(例)
When:1日
Where:病室洗面所
Who:対象者
What:両側下肢へ均等荷重し、立位保持10分可能
Why:患側下肢への荷重機会を増やすため
How:体幹筋・股関節周囲筋へのアプローチ(MMT・FRTを指標)
短期目標のポイント
- すぐ達成できる
- 日常生活と結びついている
- 長期目標へのつながりが明確
目標設定で大切な「再評価」
目標は一度決めて終わりではありません。
リハビリの過程では、
- 身体機能の変化
- 環境の変化
- 本人の意欲の変化
など、さまざまな要素が影響します。
そのため、定期的な再評価と目標の修正が非常に重要になります。
目標が変わることは失敗ではなく、より適切な方向に修正できている証拠です。
患者様との「目標共有」が最も重要
目標は、セラピストだけが理解していても意味がありません。
患者様が、
- 何のために
- どこに向かって
- 何をしているのか
を理解していることが重要です。
そのためには、
- 難しい専門用語を使わない
- 生活の場面で説明する
- 小さな変化を一緒に確認する
といった工夫が必要になります。
目標設定チェックリスト(臨床で使える5項目)
目標を設定したあと、次の5項目を確認するだけで、目標の質は大きく変わります。
短時間でも確認できる内容なので、ぜひ日々の臨床で活用してみてください。
① 長期目標は「生活」とつながっていますか?
長期目標は、身体機能ではなく生活の場面と結びついていることが重要です。
例えば、
✖ 片脚立位10秒可能
〇 スーパーまで200m歩いて買い物に行ける
片脚立位はあくまで手段であり、生活の目的がゴールになります。
確認ポイント:
- 生活の場面がイメージできるか
- 本人にとって意味のある活動か
- 達成後の生活が想像できるか
② 長期目標は「現実的」に達成できますか?
目標が高すぎると、達成できない状態が続き、意欲低下につながります。
長期目標は、
- 疾患特性
- 年齢
- 回復段階
- 既往歴
などを踏まえて、現実的な範囲で設定することが重要です。
確認ポイント:
- 現在の状態から達成の過程が想像できるか
- 無理な回復を前提にしていないか
③ 短期目標は「すぐ達成できる」内容ですか?
短期目標は、成功体験を積み重ねるためのステップです。
達成までに時間がかかる目標は、短期目標としては適していない場合があります。
確認ポイント:
- 数日〜1週間で達成できるか
- 100%達成できるイメージが持てるか
- 小さな成功体験につながるか
④ 長期目標と短期目標は「つながっていますか?」
短期目標は、長期目標に向かう途中の段階である必要があります。
もし短期目標を達成しても長期目標に近づいていない場合は、整合性が取れていない可能性があります。
確認ポイント:
- この短期目標を達成すると長期目標に近づくか
- 身体機能と生活動作がつながっているか
⑤ 患者様と「共有」できていますか?
最も重要なのは、患者様自身が目標を理解しているかどうかです。
セラピストだけが理解していても、患者様にとって意味のあるリハビリにはなりません。
確認ポイント:
- 患者様が自分の言葉で説明できるか
- 「なぜこの練習をするのか」が理解できているか
- 小さな変化を一緒に確認できているか
目標設定は一度決めて終わりではありません。
設定した目標が適切かどうかを振り返るために、次のチェックリストを活用してみてください。
まとめ
目標設定についてまとめてみました。
- 目標設定はリハビリの方向性を決める重要な要素
- 不適切な目標は意欲低下や停滞につながる
- 長期目標と短期目標は整合性が重要
- 5W1Hを使うと目標が明確になる
- 再評価と目標共有がリハビリの質を高める
目標はあくまでも「予定」です。
再評価と検証を繰り返しながら、より現実的で意味のある目標へと修正していくことが大切です。
また、達成までの期間はセラピスト自身の技量にも影響されます。
自分の技量を理解し、自分で期限を決めることも重要な要素だと感じています。
