ROMの効果は手の感覚で変わる|ハンドリングを高める5ステップ
関節可動域運動(ROM)で効果を出すには、正しいフォームで、適切な速度や力加減で動かすことが必要になります。
この「適切な速度や力加減」とは、
- 呼吸が乱れない
- 痛みを与えない
- 過緊張にならない
ような動かし方だと思います。
しかし、対象者の呼吸や筋緊張の変化を感じ取るためには、
セラピスト自身の手の感覚が良好であることが前提になります。
ハンドリングの技術は、手で感じたことを分析し、修正を繰り返すことで向上するものです。
今回は、関節可動域運動(ROM)での手の感覚の高め方について考えてみたいと思います。
手の使い方の基本
虫様筋握りで持つ


対象者の筋収縮や緊張の変化を感じ取るためには、手のセンサーとして働く虫様筋の機能が重要になります。
対象者の身体を把持する際は、虫様筋が働きやすい手の形を意識する必要があります。
その基本が、虫様筋握り(lumbrical grip)です。
虫様筋握りのポイント
- MP関節:屈曲位
- IP関節:伸展位
- 手掌全体を対象者の身体に密着させる
- 把持部位が大きい場合は手指を外転する
- 手関節は軽度背屈位を保つ
特に注意したいのが、手関節の角度です。
手関節が、
- 過度に背屈
- 尺屈
- 掌屈
すると、手掌腱膜が緊張し、虫様筋が働きにくくなります。
その結果、手の感覚が鈍くなる可能性があります。
虫様筋握りをキープする
良い形で把持できても、動かす途中で崩れてしまうことは少なくありません。
対象者を動かす際は、
- 手関節軽度背屈位
- 手指外転位
を維持できるように、身体の使い方全体を調整することが重要です。
良い例(下腿の把持)

- 肘関節:90°屈曲位
- 肩関節:軽度内旋位
- 重心:低く保つ
この姿勢をとることで、
- 手関節軽度背屈位
- 手指外転位
を維持しやすくなり、下腿を手掌全体に載せることができます。
悪い例(下腿の把持)
① 手関節掌屈

手関節が掌屈すると、
- 手指が閉じる
- 手掌が硬くなる
結果として、対象者の下腿を手掌全体に載せにくくなります。
② 手関節の過度な尺屈

手関節が過度に尺屈すると、
- 小指球が潰れる
- 手掌の接触面が減る
結果として、感覚入力が低下します。
手の感覚のステップアップ
ここからは、手の感覚を高めるための段階についてお伝えします。
私自身が関節可動域運動で感じている感覚をもとに、段階的に整理してみました。
まずは、自分がどの段階にいるかを把握すること
が大切です。
Step① 呼吸に合わせて動かせる
まずは、呼吸を感じながら動かすことから始まります。
対象者の呼吸を観察し、
- 呼気時に運動を開始する
- 呼吸が止まったら速度を緩める
といった対応ができるようになります。
臨床でのポイント
呼吸が乱れると、筋緊張は上がりやすくなります。
そのため、呼吸の変化を感じ取れるようになると、緊張の変化も早く察知できるようになります。
Step② 緊張とリラックスが区別できる
対象者が四肢を安心して預けられる状態がリラックスです。
逆に、
- 手に力が入っている
- 四肢が突っ張る
場合は、緊張している可能性があります。
四肢の重みを適切に感じる方法
- 関節近位部を正しく支える
- ゆっくり持ち上げる
- 開始時や切り替え時は特に丁寧に動かす
- 二関節筋が緊張しにくい角度にする
- 対象者に力を抜いてもらう
特に注意したいのは、急に四肢が軽くなったときです。
これは、防御性収縮のサインであることがあります。
Step③ 防御性収縮とエンドフィールが区別できる
関節可動域運動では、エンドフィールの感覚を正しく理解することが非常に重要です。
感覚の違い
● 筋性エンドフィール
→ 少し弾力があり、まだ伸びそうな感覚
● 防御性収縮
→ 急に止まるような硬い感覚
防御性収縮が起きる原因として、
- 持ち方
- 動かし方
- 速度
- 運動方向
などの不適切さが関係することがあります。
Step④ 他動運動で筋収縮がわかる
対象者がリラックスした状態で動かせるようになると、他動運動でもわずかな筋収縮を感じられるようになります。
他動運動で感じる筋収縮
- 筋腹のわずかな動き
- 四肢が少し軽くなる感覚
- 関節の安定感が増す
これらが感じられるようになると、運動の質が大きく変わります。
Step⑤ 他動運動で運動連鎖がわかる
筋収縮は、一つの筋だけで起こるものではありません。
中枢から遠位へと連鎖して起こります。
この連鎖を感じられるようになると、
- 近位からの誘導
- 遠位からの誘導
を使い分けられるようになります。
遠位操作ができるようになる目安
- 近位・遠位どちらでも重さの感覚が同じ
- 遠位でもリラックスが確認できる
- 遠位でも近位筋の反応がわかる
この段階に到達すると、四肢の空間保持(プレーシング)が可能になってきます。
手の感覚を高めるための日常的トレーニング
手の感覚は、臨床以外でも鍛えることができます。
例えば:
- タオルの重さの違いを感じ取る
- 水の入ったコップの重さを調整する
- 両手で同じ重さを比較する
こうした簡単な練習でも、感覚の精度は向上します。
まとめ
関節可動域運動(ROM)は、ただ関節を動かす運動ではありません。
対象者の状態に応じて、
- 呼吸
- 筋緊張
- 反応
を感じ取りながら実施することで、その効果は大きく変わります。
対象者の状態をより詳細に把握するためには、
数値だけでなく、触れた感覚が重要
になります。
手の感覚は一朝一夕では身につきませんが、段階的に意識して積み上げていくことで、確実に向上します。
その積み重ねが、関節可動域運動の質を高め、リハビリの効果を大きく変えると考えています。
