関節可動域運動で効果を出すには、正しいフォームで適切な速度や力加減で動かすことが必要になります。
この適切な速度や力加減とは
- 対象者の呼吸が乱れない
- 痛みを与えない
- 過緊張にならない
ような動かし方になると思います。
ただし、対象者の呼吸や筋緊張を感じるためには、セラピストの手の感覚が良好でなければなりません。
ハンドリングの技術は、手で感じたことを分析と修正を繰り返しながら向上すると思っています。
今回はセラピストの手の感覚の高め方について考えてみたいと思います。
手の使い方の基本
虫様筋握りで持つ
セラピストの手から対象者の筋収縮などの感覚を得るには、手のセンサーと言われる虫様筋の働きが重要になります。
対象者の身体を把持する際は、虫様筋が働きやすくなるように手関節の角度に注意して手掌を大きく使います。
手関節の過度な背屈や尺屈、掌屈は虫様筋と皮膚の間にある手掌腱膜を緊張させ虫様筋を働きにくくします。
虫様筋握り
- 手指MP関節屈曲位、IP関節伸展位で手指と手掌全体を対象者の身体に密着させる
- 把持する部位が大きくなる程、手指を外転して把持する
- 手関節は軽度背屈位を保持する
虫様筋握りをキープする
対象者の身体を動かす際、つかみ動作が崩れると虫様筋の働きが不十分になると手の感覚が鈍くなります。
手関節の軽度背屈位、手指の外転を維持できるように構える位置、身体の使い方、肩関節・肘関節・前腕の角度を調節します。
良い例(下腿の把持)
肘関節90°屈曲位、肩関節内旋位で重心を低くすることで手関節軽度背屈位、手指の外転を維持して、対象者の下腿を手掌全体に載せることができています。
悪い例(下腿の把持)
①手関節掌屈
手関節が掌屈すると手指は閉じて手掌が固くなり、対象者の下腿を手掌に載せることが難しくなります。
②手関節の過度な尺屈
手関節が過度に尺屈すると手指は閉じて小指球が潰れ、対象者の下腿を手掌全体に載せることが難しくなります。
手指外転位で手掌の尺側をしっかり当てた状態をキープ
手の感覚のステップアップ
私が関節可動域運動で感じている感覚をもとに、手の感覚を高めるための段階付けを考えてみました。
まずはどの段階にいるかを把握して、順番に習得していくのが良いかと思います。
①呼吸に合わせて動かせる
視診と手の感覚により対象者と呼吸を合わせてから、身体を動かし始める習慣を作ります。
呼吸が止まったり浅くなるのがわかるようになると、呼吸から筋緊張の変化を感じることができます。
また呼気時の運動開始や緊張が上がったら運動速度を緩めるなど、対象者を緊張させないような誘導もできます。
②緊張とリラックスが区別できる
セラピストが支える手に、対象者が安心して四肢を載せることができるとリラックスした状態になります。
しかし、セラピストの支える手に安心して四肢を預けれない場合、緊張した状態で四肢を動かすことになり良い結果が得られません。
運動誘導も対象者が過剰に反応すると、四肢は緊張した状態になるので、それに気づいて運動を調節できることが望ましいです。
対象者が四肢を預けられているかの確認は、呼吸状態に加え、四肢の重さを適切に感じる必要があります。
◆四肢の重みを適切に感じる方法
- 動かす関節の近くを正しいフォームでしっかり支える
- 近位部を支えている手でゆっくり持ち上げる
- 運動の開始時や切り替え時は特に注意して動かす
- 二関節筋が緊張しにくい関節角度にする
- 対象者に力を抜いてもらう
※遠位部から持ち上げたり速く動かしたりすると緊張しやすい。
運動時は四肢が突っ張らないようにすることはもちろんですが、急に四肢が軽くなった場合も緊張していることがあるので、適切な筋収縮が起こっているかを常に確認しながら動かします。
③防御性収縮とエンドフィールが区別できる
他動運動では、関節角度の最終域で筋性のエンドフィールを感じてゆっくり伸張することで関節可動域を拡大できます。
しかし、関節を伸張する際には痛みや不快感により防御性収縮が起こる場合があり、エンドフィールと間違えると効果が得られません。
◆感覚の違い
- 筋性のエンドフィール:筋がまだ伸張できそうな少し弾力のある感覚
- 防御性収縮:急に運動が止まるような硬い感覚
セラピストの持ち方、動かし方、動かす速さ、運動方向のいずれかが不適な場合にも防御性収縮は起こりやすくなります。
④他動運動で主動作筋の筋収縮がわかる
対象者がリラックスした状態で運動を誘導できるようになると、他動運動でも幾分か筋収縮が得られるようになります。
◆他動運動で感じる筋収縮
- 視診で筋腹が動くのがわかる
- 四肢が少しづつ軽くなる感じがする
- リラックスした状態でも関節が安定してくる
⑤他動運動で運動連鎖がわかる
筋収縮は動かしている一つの筋だけでなく、中枢部から遠位にかけて連結して起こります。
この筋連結を考慮して運動を誘導できるようになると、対象者の筋緊張に合わせて近位部からの誘導と遠位部からの誘導を使い分けれるようになります。
遠位部から誘導できると、近位部から誘導するよりも多く筋活動を得ることができます。
◆遠位部で操作できるようになるには
- 近位部で支えたときと遠位部で支えたときの四肢の重さの感覚が同じ
- 遠位部で支えてもリラックスした状態がわかる
- 遠位部で支えても近位部の筋活動がわかる
この感覚がわかると対象者の状態にはよりますが、四肢を空間で保持(プレーシング)できるようになると思います。
まとめ
関節可動域運動は対象者の状態や目的に応じて実施することで効果が上がります。
対象者の状態をより詳細に把握するには、数値的な見た目の評価だけでなく、触れた際の感覚が重要になると思っています。