「足が外に回ってしまう」
「つま先が引っかかりそうで怖い」
脳卒中のあとに見られる“ぶん回し歩行”
最初は仕方ないように思えても、放っておくと転倒や腰痛の原因になります。
なぜ足を回すような歩き方になってしまうのか?
どうすれば、まっすぐ自然に歩けるようになるのか?
今回は、ぶん回し歩行の原因と、リハビリで気をつけたいポイントを紹介します。

監修:西本 武史(医師・医学博士)
介護医療院グリーン三条施設長。広島大学医学部卒業後、脳神経外科医(脳神経外科専門医・脳卒中認定医)として急性期病院20年、回復期病院6年勤務。国立がんセンター研究所で2年半研究に従事。
ぶん回し歩行について
ぶん回し歩行とは、麻痺のある足を外側に回しながら前に出す歩き方のことです。
コンパスのように弧を描くように足を振り出すのが特徴です。
これは、麻痺によって足が思うように上がらず、地面に引っかかりやすくなることが原因で起こります。
その結果、次のような体の動きが見られます。

- 麻痺していない足の方へ、体を大きく傾ける
- 麻痺側の腰を引き上げながら後ろに引く
- 麻痺側の足を外に開き、円を描くように前に出す
ぶん回し歩行の原因
骨盤の安定性が低下している
骨盤を支えるインナーユニット(横隔膜、腹横筋、多裂筋、骨盤底筋群)や中臀筋の働きが弱くなると、骨盤がぐらつきやすくなります。
その結果、歩くときにお尻を左右に振ったり、腰を大きく動かしてバランスを取ろうとします。

また、骨盤を持ち上げる働きのある腹斜筋や腰方形筋が弱いと、代わりに背中の筋肉(脊柱起立筋など)が過剰に働き、体が反りやすくなります。
このような代償が積み重なると、ぶん回すような歩き方になりやすくなります。

足がうまく上がらない(トゥクリアランスの低下)
歩行中に膝が突っ張って曲がりにくい、または足首を上に上げにくい(背屈しにくい)と、つま先が床に引っかかりやすくなります。
そのため、足を外側に回して前に出そうとする「ぶん回し歩行」になります。

足首を上げる筋肉が弱い「下垂足」や、つま先が伸びたままになる「尖足」がある場合には、装具を使って補うこともあります。
また、歩くときだけ足が突っ張る場合は、体幹と足の動きがうまく連動していない(協調性の問題)ことが原因のこともあります。
ぶん回し歩行改善のポイント
体の左右差を整える(体幹の対称性)
脳卒中のあとでは、どうしても麻痺のない側に体を傾けやすくなります。
体幹のバランスが崩れると、麻痺側の足に体重を乗せにくくなり、ぶん回すような動きが出やすくなります。
まずは、左右どちらにも同じくらい体重をかけられる姿勢づくりが大切です。

麻痺側の足で体を支える
麻痺側の足に力が入りにくいと、体を支えられず、反対側へ大きく傾いてしまいます。
支えが安定すれば、ぶん回す必要がなくなり、スムーズに体を前へ運べるようになります。
片脚立ちの練習や、立位での重心移動練習が有効です。

麻痺側の腰を持ち上げる動き(骨盤挙上)
歩くとき、骨盤が持ち上がることで足が前に出しやすくなります。
しかし、麻痺側ではこの「骨盤の引き上げ」がうまくできず、足が地面に引っかかりやすくなります。
腹斜筋や腰方形筋を使った体幹トレーニングで、骨盤をコントロールする力を高めていきましょう。

自宅でできるリハビリ
骨盤の安定と骨盤の引き上げを改善するために、おすすめの運動をご紹介します。
麻痺側への重心移動
麻痺側に重心を移すことで、麻痺側の体幹や下肢の支持性を高めます。
物につかまったり、座った状態でも構いません。安全に行いましょう。

- 麻痺側の足裏(踵・母趾球・小趾球)で床を感じながら、ゆっくり麻痺側に体重をかける
- 無理のない範囲で、できるだけしっかり体重をかけてキープ
- 骨盤が傾かないよう注意し、健側にも重心を移すことで、麻痺側の骨盤周囲をバランスよく鍛える
骨盤挙上トレーニング
骨盤を引き上げる運動に主に腹斜筋を鍛えます。
腰が反ったり、骨盤が倒れたりしないように良い姿勢で行ってください。

- 椅子に座り、胸の前で腕を組む
- 体を横に倒さないようにし、片方の骨盤を引き上げる
- 引き上げた状態で5秒キープを交互に繰り返す
まとめ
脳卒中片麻痺患者のぶん回し歩行の原因とリハビリのポイントについて簡単にまとめてみました。
- ぶん回し歩行について
- ぶん回し歩行の原因
- ぶん回し歩行の改善ポイント
- 自宅でできるリハビリ
ぶん回し歩行は、「歩けているけれど負担が大きい歩き方」です。
原因を見極めて、筋力・姿勢・重心のコントロールを整えることで改善が期待できます。


