思うように話せない原因とは?失語症の評価と生活リハビリ・自宅でできる運動
脳卒中後に
「思うように話せない」
「思ったことと違うことを言っている」
「言っていることがわからない」
このような場合は、失語症という症状かもしれません。
失語症は、コミュニケーションに大きく影響する重要な症状です。
しかし、適切な関わり方や生活の工夫によって、意思疎通の機会を増やすことができます。
今回は、脳の左半球の病気により、言葉を話したり聞いたりすることが難しくなる失語症の評価とリハビリ方法についてまとめてみます。

監修:西本 武史(医師・医学博士)
介護医療院グリーン三条施設長。広島大学医学部卒業後、脳神経外科医(脳神経外科専門医・脳卒中認定医)として急性期病院20年、回復期病院6年勤務。国立がんセンター研究所で2年半研究に従事。
失語症について
失語症とは、聞く・話す・読む・書くといった言語に関する機能が低下した状態です。
主には、左側の脳の出血や梗塞によって症状が現れ、右半身の麻痺を伴うことが多いです。
症状の現れ方は病気の場所や程度によって異なり、
- 全く会話ができない状態
- 単語のみ話せる状態
- 多少の会話ができる状態
など、さまざまな段階があります。
失語症の種類
失語症は、脳の障害された場所によって症状の現れ方が異なります。
ここでは、代表的な失語症の種類を簡単に紹介します。
ブローカ失語(運動性失語)
話すことが難しくなる失語症です。
左前頭葉のブローカ野が障害されることで起こります。
特徴
- 言葉が出にくい
- 単語で話すことが多い
- 話すまでに時間がかかる
- 聞いて理解する力は比較的保たれている
- 話せないことへのもどかしさを感じやすい
生活で見られる様子
- 「水」「トイレ」など単語で伝える
- 頷きなどで意思を伝える
- 言いたいことがあるのに言葉が出ず、いらだつ様子がある
ウェルニッケ失語(感覚性失語)
聞いて理解することが難しくなる失語症です。
左側頭葉のウェルニッケ野が障害されることで起こります。
特徴
- 話すことはできるが内容がまとまらない
- 意味の通じない言葉が増える
- 相手の話が理解しにくい
- 自分の話が通じていないことに気づきにくい
生活で見られる様子
- たくさん話すが内容が分かりにくい
- 指示を聞いても違う行動をする
- 会話が成り立ちにくい
伝導失語
聞くこと・話すことはできるが、言葉の繰り返しが難しい失語症です。
ブローカ野とウェルニッケ野をつなぐ弓状束が障害されることで起こります。
特徴
- 会話はある程度できる
- 言葉の繰り返し(復唱)が難しい
- 言い間違いに気づきやすい
生活で見られる様子
- 相手の言葉を繰り返すのが苦手
- 言い直しが多くなる
全失語
聞く・話す・読む・書くのすべてが大きく障害される失語症です。
脳の広い範囲が障害された場合に起こります。
特徴
- 言葉でのコミュニケーションが難しい
- 単語も出にくい
- 言葉の理解も難しい
生活で見られる様子
- 表情や身振りで意思を伝える
- 言葉以外の方法でのコミュニケーションが重要になる
言語のメカニズム
言語は、脳の複数の部位が協力することで成り立っています。

聞くしくみ(理解)
耳で聞いた音は、左側頭葉(ウェルニッケ野)で意味付けされ、言葉として認識されます。
話すしくみ(表出)
話したいという意思が生まれると、左前頭葉(ブローカ野)が言葉の概念を運動に変換し、声として発せられます。
つなぐしくみ(弓状束)
ブローカ野(話す)と
ウェルニッケ野(聞く)は、
弓状束(きゅうじょうそく)という神経の束でつながり、相互に情報をやり取りしています。
このどこかが障害されると、失語症の症状が現れます。
言語の発達から考える回復
脳の回復段階は、子どもの発達段階と似た経過をたどることがあります。
言語の理解(目安)
- 3〜4カ月:音のする方を向く
- 9〜11カ月:「ダメ」が分かる
- 12〜18カ月:簡単な指示が分かる
言語の表出(目安)
- 3〜4カ月:笑う
- 7カ月:喃語
- 1〜1歳半:有意語
- 2〜2歳半:2〜3語文
- 3歳:自分の名前が言える
このように、理解できても、言葉として出せるようになるまで時間がかかることが分かります。
失語症の回復でも、焦らず段階を踏むことが大切です。
失語症の主な症状
喚語困難(かんごこんなん)
伝えたいことがあるのに、言葉が思い出せない状態です。
失語症で最も多く見られる症状です。
錯誤(さくご)
言いたい言葉とは異なる言葉を言ってしまう状態です。
例:
- 「時計」と言いたいのに「テレビ」と言う
また、推測が難しいほど言葉が変化する場合を、新造語と呼びます。
ジャーゴン
意味のある単語にならない発話が続く状態です。
話してはいるものの、相手が理解できない言葉になってしまいます。
言語理解障害
言葉は聞こえていても、意味が理解できない状態です。
- 単語は分かる
- 短い文章は分かる
など、程度はさまざまです。
また、ジェスチャーの理解も難しくなることがあります。
失読
文字が見えていても、文字の意味が理解できない状態です。
失書
文字を思い出せず、書くことが難しくなる状態です。
一緒に起こりやすい症状
失行
やりたいことの手順が分からなくなる状態です。
例:
- 歯ブラシの使い方が分からない
- 道具を間違って使う
新しいことを覚えることが特に難しくなります。
失算
これまでできていた簡単な計算ができなくなる状態です。
失語症の評価のポイント
失語症では、次のような項目を観察します。
- 名前が言えるか(呼称)
- 簡単な指示が理解できるか
- 繰り返しができるか
- 文字の読み書きができるか
- 会話の流れが保てるか
また、どの方法なら伝わるか(言葉・ジェスチャー・指差しなど)を評価することも重要です。
理解したように見えても注意する
本人がうなづいていたり「はい」と返事をしていても、言葉の意味を十分に理解できていない場合があります。
そのため、
- 返事だけで判断しない
- 実際に行動できているかを確認する
ことが重要です。
例えば、
「コップを取ってください」
と伝えたときに、
- 正しい物を取れるか
- 適切な行動ができるか
を確認することで、理解の程度を判断することができます。
また、周囲に合わせてうなずくこともあるため、
「分かった様子」だけで判断しないことが大切です。
日常生活で起こりやすい問題
失語症は生活のさまざまな場面に影響します。
例えば:
- 自分の意思が伝えられない
- トイレや食事の希望を言えない
- 電話が使えない
- 買い物が難しい
- 会話が減り、孤立しやすくなる
コミュニケーションの減少は、活動量の低下や意欲低下にもつながる可能性があります。
簡単にできる生活リハビリ
コミュニケーションに時間をかける
言葉を出す前には、頭の中で言葉をまとめる(内言語)作業が必要です。
そのため、
- 急かさない
- 待つ
- 答えやすい質問にする
ことが大切です。
例:
×「どうしたい?」
○「水を飲みますか?」(はい・いいえ)
カレンダーを見る
日常的に使うカレンダーは、数字や曜日への関心を高めるのに役立ちます。
- 日付を確認する
- 今日の予定を見る
このような習慣が、言葉や意味の理解のきっかけになります。
自宅でできるトレーニング
直接的な言葉の練習は疲れやすいため、意味のある活動を通して言語を刺激することが重要です。
写真を見る
昔の写真や馴染みのある風景の写真を見ることで、
- 記憶
- 視覚
- 言葉
を結びつける練習になります。
次のような反応が見られると良い変化です:
- 写真を見て笑う
- 指差しをする
- 表情が変わる
また、アルバムを開く・ページをめくるといった動作も、物と言葉を結びつける練習になります。
塗り絵
塗り絵は、
- 絵の認識
- 道具の使用
- 色の選択
など、複数の情報をまとめる練習になります。
改善の目安:
- 適切な色を選べる
- 枠内に塗れる
ようになることです。
身近な物の名前合わせ
実生活で使う物を使うと効果的です。
例:
- コップ
- 歯ブラシ
- 時計
物を見て、
- 指差し
- 名前を言う
- 用途を示す
などを行います。
まとめ
失語症の評価とリハビリ方法についてまとめました。
失語症は、
「話せない」だけでなく、
「理解」「読む」「書く」
といった多くの機能に関係します。
しかし、
- 日常生活の中での工夫
- 本人にとって意味のある活動
- 焦らず待つ関わり
を行うことで、コミュニケーションの機会を増やすことができます。
また、脳は興味や関心があることを行うと活発に働くと言われています。
苦手なことにこだわりすぎず、できることを広げていくことが回復につながります。
