リハビリでは、自力で体幹を起こすことが難しい高齢者を担当することがあります。

そのような方を観察していると、座位で左右どちらかの腰方形筋周辺が盛り上がって見えることがあります。

私は当初、
「脊柱の変形によって腰方形筋が萎縮しているのだろうか?」
と考えていました。

しかし実際に介助や運動を行う中で、別の解釈も考えられるようになりました。

この記事では、自力で体幹を起こせない高齢者に見られる腰方形筋周辺の膨隆について、臨床での観察をもとに考察してみます。

観察した症例の特徴

今回観察した方には、以下のような特徴がみられました。

  • 円背姿勢が強い
  • 自力で体幹を起こせない
  • 端座位で骨盤前傾が難しい
  • 端座位で腰方形筋周辺に左右差のある膨隆が見られる
  • 膨隆側は下肢や体幹の支持性低下が目立つ
  • 腹部の筋量低下が目立つ
  • 仰向けになることは可能

興味深かったのは、膨隆している部分を手で押し込みながら骨盤を起こすと、座位姿勢が改善しやすかったことです。

その際、本人は両手で床を押さえながら体幹を支持していました。

腰方形筋周辺の膨隆は何を意味するのか?

腰方形筋周辺の膨隆を見ると、

  • 筋緊張の亢進
  • 代償的な筋活動
  • 脊柱変形による形態変化
  • 筋萎縮による周辺組織の突出

など様々な可能性が考えられます。

しかし今回の症例では、単純な局所の問題だけでは説明しにくい印象がありました。

膨隆がみられた方は、

  • 円背姿勢が強い
  • 骨盤前傾が難しい
  • 体幹や下肢の筋力低下が目立つ

という特徴がありました。

そのため、腰方形筋や脊柱起立筋群などが、姿勢を維持するために代償的に働いた結果として膨隆して見えている可能性が考えられます。

なぜ押さえると骨盤が起こしやすくなるのか?

今回もっとも興味深かったのは、膨隆部を押さえながら骨盤を起こすと座位姿勢が改善しやすかったことです。

もし単純な筋短縮だけが原因であれば、筋を伸ばすだけで改善するはずです。

しかし実際には、膨隆部を固定した状態の方が骨盤を起こしやすくなりました。

このことから、膨隆部は単なる「硬い筋肉」ではなく、
体幹や骨盤の安定性を補う代償になっていた可能性が考えられます。

外部から安定性を与えることで、残存している筋力を効率よく使える状態になっていたのかもしれません。

評価結果から考えられること

腰方形筋の膨隆が代償活動の結果だとすると、その背景にどのような機能低下があるのかを評価することが重要になります。

例えば、

  • 三角クッションを使用すれば仰向け可能
  • 端座位での骨盤前後傾は困難
  • ブリッジではお尻は上がるが背中が上がらない
  • 立位での腹式呼吸は困難

という場合、

股関節伸展機能はある程度残存している一方で、

  • 体幹伸展筋群
  • 体幹深部筋
  • 呼吸機能

の低下によって、骨盤を起こした姿勢を保持できなくなっている可能性があります。

また、長期間の円背姿勢による

  • 腹筋群の廃用
  • 胸郭可動性の低下

なども影響し、腰方形筋や胸腰筋膜などへ負担が集中している可能性があります。

一方で、

  • 仰向けが困難
  • 骨盤前後傾もほとんど出ない
  • 他動でも改善が乏しい

場合は、筋力低下だけでなく拘縮や脊柱変形など構造的要因の影響が大きい可能性があります。

この症例では、三角クッションを使用すれば仰向けが可能であり、骨盤や体幹を補助すると姿勢が改善しました。

そのため、構造的な変形だけでなく、体幹機能や運動制御の低下が関与していたと考えられます。

完全な固定変形ではなく、介助や運動によって改善する可能性が残されていた状態でした。

実際のアプローチ

今回の症例では、

  • 三角クッションを使用すれば仰向け可能
  • 端座位での骨盤前後傾は困難
  • ブリッジではお尻は上がるが背中が上がらない
  • 立位での腹式呼吸は困難
  • 骨盤を補助すると姿勢が改善する

という特徴がありました。

そのため、腰方形筋そのものを治療対象として考えるよりも、体幹・骨盤機能全体の改善を目指す方が重要ではないかと考えています。

私が重視したのは、

  1. 体幹伸展機能の改善
  2. 骨盤を起こした姿勢の学習
  3. 呼吸機能の改善

の3点です。

① 寝返りによる体幹伸展機能へのアプローチ

症例では、

  • ブリッジでお尻は持ち上がる
  • 背中は十分に持ち上がらない

という特徴がありました。

そのため、多裂筋、腹筋群などの活動低下が考えられました。

そこで介助下での寝返り練習を行い、脊柱回旋運動を通して体幹筋群の活動を促しました。

寝返りは体幹全体を協調して使う運動であり、体幹機能の再学習にも有効と考えています。

▶寝返り介助やハンドリングについては、こちらの記事で詳しく解説しています。

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② 骨盤を起こした座位保持練習

端座位では骨盤後傾が強く、自力で骨盤を起こすことが困難でした。

そこで介助により骨盤を起こした姿勢を作り、坐骨や下肢への荷重を促しました。

骨盤を起こすことで、

  • 体幹伸展筋群
  • 骨盤周囲筋
  • 大腿四頭筋

などが働きやすくなります。

介入当初は両手で床や膝を強く支えていましたが、徐々に支えが減り、姿勢保持時間も延長していきました。

▶座位姿勢へのアプローチについては、こちらの記事で詳しく解説しています。

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③ 呼吸機能へのアプローチ

症例では円背姿勢が強く、腹部の筋量低下が目立っていました。

また、体幹を支えることが難しく、呼吸時の腹部の動きも乏しい状態でした。

長期間の円背姿勢や骨盤後傾では、

  • 横隔膜
  • 腹横筋
  • 内腹斜筋

などの体幹深部筋が働きにくくなります。

そのため私は、体幹を起こせる環境を設定したうえで腹式呼吸の練習を行いました。

呼吸によって腹部の動きが引き出されることで、

  • 腹腔内圧の向上
  • 体幹の安定化
  • 姿勢保持能力の向上

につながる可能性があると考えています。

今回の症例で優先したいポイント

今回の評価結果からは、

  • 寝返りによる体幹伸展機能の改善
  • 座位保持練習による骨盤周囲筋の改善
  • 立位での腹式呼吸による体幹深部筋の機能改善

を優先することで、腰方形筋への代償負担を減らせる可能性があると考えています。

特に今回の症例では、骨盤を補助すると姿勢が改善し、体幹を起こすことで腹部の働きもでやすくなりました。

そのため局所の筋肉だけでなく、体幹・骨盤機能全体を再構築していく視点が重要ではないかと感じています。

まとめ

自力で体幹を起こせない高齢者に見られる腰方形筋周辺の膨隆は、腰方形筋そのものの問題ではなく、体幹・骨盤機能の低下を補うための代償として現れている可能性があります。

今回の症例では、

  • 膨隆部を固定すると骨盤を起こしやすくなった
  • 体幹を起こすことで姿勢が改善した
  • 腹部の動きや呼吸が出やすくなった

という変化が見られました。

そのため、腰方形筋周辺の膨隆を評価する際は、

  • 腰方形筋だけを見る
  • 局所の筋力や筋緊張だけで判断する

のではなく、

  • 体幹機能
  • 骨盤機能
  • 呼吸機能

を含めて全体を評価することが重要だと考えています。

腰方形筋周辺の膨隆は、「原因」ではなく「結果」として現れているのかもしれません。

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