脳卒中後の病識低下はなぜ起こる?『気づき』を育てるリハビリの考え方
脳卒中後、
- 麻痺があるのに一人で歩こうとする
- 転倒を繰り返す
- 「自分は何でもできる」と言う
- リハビリの必要性を感じていない
このような様子がみられることがあります。
ご家族からは、
「なぜ本人は気づかないの?」
「説明しても理解してくれない」
という相談を受けることも少なくありません。
これは単なる性格の問題ではなく、脳卒中による病識低下が関係している可能性があります。
この記事では、病識低下が起こる原因と、リハビリでの考え方について解説します。
病識低下とは?

病識低下とは、簡単にいうと「自分を正しく理解する力が低下した状態」です。
例えば、
- 麻痺があることに気づかない
- 転倒の危険性を理解できない
- 自分の能力を実際より高く評価してしまう
といったことがみられます。
一方で、病識とは、自分の身体や認知機能の問題を理解できている状態を指します。
例えば、
- 右手が動かしにくい
- 歩くとふらつく
- 物忘れが増えた
といった問題に、自分自身で気づいている状態です。
病識低下は、単に「現実を受け入れたくない」という心理的な問題だけで起こるわけではありません。
脳卒中などによる脳の働きの変化によって起こることがあります。
なぜ病識低下が起こるのか?
病識低下は一つの原因だけで起こるわけではありません。
① 覚醒レベルや見当識の低下
脳卒中直後は、
- 眠気が強い
- 集中できない
- 日付や場所が分からない
ことがあります。
まずは周囲の情報を取り込める状態になることが重要です。
覚醒レベルが低い状態では、自分の身体について考えることも難しくなります。
② 周囲への関心の低下
病識を持つためには、まず周囲に注意を向ける必要があります。
例えば、
- 他の患者さんの動き
- セラピストの説明
- 周囲の環境
などに関心を向けることです。
脳卒中後には注意機能の低下や半側空間無視などによって、周囲の情報を十分に取り込めない場合があります。
③ 自分への関心の低下
周囲を認識できるようになると、
- 自分はどう動いているか
- なぜ失敗したのか
- 他者との違いは何か
を考えられるようになります。
これを自己モニタリングと呼びます。
病識低下のある方では、この自己モニタリングが十分に働いていないことがあります。
また、この過程には前頭葉の働きも深く関係しています。
前頭葉は、
- 自己評価
- 判断
- 計画
- 行動の修正
などを担っています。
そのため前頭葉機能が低下すると、実際にはできていないことでも「できる」と判断してしまうことがあります。
病識低下があると何が問題になる?
最も大きな問題は転倒です。

例えば、
- 一人で立ち上がる
- 車椅子のブレーキをかけずに移乗する
- 介助を断る
などの行動につながります。
また、
- リハビリへの参加意欲低下
- 自主練習不足
- 退院後の生活への適応困難
につながることもあります。
脳卒中後の転倒は、筋力や麻痺の重症度だけで決まるわけではありません。
病識低下や注意機能の低下など、身体機能だけでは説明できない要因が関係することもあります。
リハビリのポイント
病識低下のある方に対して、
「危ないですよ」
「できませんよ」
と繰り返し説明するだけでは改善しないことが少なくありません。
重要なのは病識を支える土台を整えることです。
① 覚醒レベルを高める

覚醒レベルが低いと、周囲の情報を十分に取り込むことができません。
まずは心地よい刺激を通して、周囲に注意を向けやすい状態を作ります。
- 散歩や屋外活動で日光や風を感じる
- 好きな音楽や会話など心地よい刺激を取り入れる
- 座位や立位で身体を起こす
- 生活リズムを整える
などを行います。
② 周囲への関心を引き出す

周囲への注意を促します。
例えば、
- 鏡を見る
- 動画で動作を確認する
- 他者との比較を行う
などです。
客観的な情報を増やすことで、自分の状態を理解しやすくなります。
③ 自分で気づく機会を作る
病識は説明されて獲得するよりも、体験を通して気づくことで深まりやすくなります。
例えば、
- 立ち上がりを試す
- 歩行を行う
- 動画で振り返る
ことで、「思ったよりふらついている」と本人が気づくことがあります。
④ 成功体験を積み重ねる
病識を持つことは、自信を失うことにもつながります。
そのため、
- できないこと
- 危険なこと
だけではなく、
- できること
- 改善したこと
にも目を向けることが大切です。
ご家族ができるサポート
病識低下がある方に対して、
「何度言っても分からない」
「わざとやっている」
と感じることもあるかもしれません。
しかし本人は気づけていない場合があります。
ご家族は、
- 頭ごなしに否定しない
- 安全な環境を整える
- 小さな気づきを共有する
ことが大切です。
ご家族が焦らず関わることも、病識の改善を支える大切な要素です。
病識は段階的に改善する
病識は「ある・ない」で分かれるものではありません。
周囲への関心が向く、自分の失敗に気づく、安全を意識できるなど、少しずつ育っていくものです。
そのためリハビリでは、できないことを指摘するだけでなく、本人が気づける体験を積み重ねることが重要になります。
まとめ
脳卒中後の病識低下は、
- 覚醒レベルの低下
- 周囲への関心の低下
- 自分への関心の低下
などが関係して起こります。
リハビリでは単に説明するだけでなく、
- 覚醒・見当識を整える
- 周囲への関心を引き出す
- 自分への関心を高める
- 自分で気づく機会を作る
という流れで関わることが重要です。
病識が高まることで、安全な生活や効果的なリハビリにつながっていきます。
