麻痺が軽くても転倒する?身体機能だけでは説明できない脳卒中後の転倒リスク
脳卒中後のリハビリでは、
「足は動くのに転倒してしまう」
「麻痺は軽いと言われたのに一人で歩けない」
「リハビリでは歩けるのに病棟や自宅では見守りが必要」
といった場面があります。
ご本人やご家族からすると、
「これだけ足が動くなら歩けるのでは?」
「なぜ車椅子を使っているの?」
「なぜ一人で歩かせてもらえないの?」
と疑問に感じることも少なくありません。
実は、脳卒中後の転倒リスクは麻痺の程度だけで決まるものではありません。
身体機能が比較的保たれていても、感覚障害や高次脳機能障害などの影響によって転倒リスクが高くなることがあります。
この記事では、麻痺だけでは説明できない脳卒中後の転倒リスクについて解説します。
麻痺だけではADLは予測できない
脳卒中後の評価では、腕や足の動きに注目することが多くあります。
しかし実際の生活では、
- 自分の身体の位置を把握する
- 周囲の状況を確認する
- 危険を予測する
- バランスを保つ
- 適切な手順で動作を行う
といった能力も必要です。
そのため、
- 麻痺は軽いのに転倒を繰り返す
- 下肢は動くのに車椅子移動
- リハビリ室では歩けるのに病棟では介助が必要
といったことが起こります。
このような場合、麻痺以外の問題が隠れている可能性があります。
注意障害|歩けるけれど安全に歩けない
歩行中には、
- 足元を確認する
- 周囲の人や障害物を見る
- バランスを調整する
など、複数の情報を同時に処理する必要があります。
注意障害があると、
- 人や物にぶつかる
- 歩きながら会話すると止まる
- 環境が変わると転倒しやすい
といった問題が生じます。
リハビリ室のような静かな環境では歩けても、病棟や自宅では転倒リスクが高くなることがあります。
▶注意障害については、こちらの記事で詳しく解説しています。
半側空間無視|見えていても気づけない
脳卒中後、特に右半球の損傷では半側空間無視がみられることがあります。
これは視力の問題ではなく、片側の空間への注意が向きにくくなる状態です。

例えば、
- 左側の壁にぶつかる
- 車椅子で左側を接触する
- 左側のブレーキをかけ忘れる
- 左側に置いた物に気づかない
といったことが起こります。
下肢機能が比較的良好でも、安全な歩行や移動を難しくする大きな要因になります。
▶︎半側空間無視については、こちらの記事で詳しく解説しています。
失行|動けるのに動作にならない
失行とは、筋力や理解力に大きな問題がないにもかかわらず、目的の動作をうまく行えなくなる症状です。
例えば、
- 車椅子から立ち上がる手順が分からない
- 歩行器を正しく操作できない
- 動作の順番が混乱する
といった状態です。
セラピストが誘導するとできるのに、一人になるとできない場合、失行が影響していることがあります。
「筋力がないからできない」のではなく、「動作として組み立てられない」状態です。
特に失語症を認める症例では、コミュニケーションの問題だけでなく失行の有無にも注意が必要です。
指示が伝わっていないように見えても、実際には動作手順の障害が影響していることがあります。
▶︎失語・失行については、こちらの記事で詳しく解説しています。
感覚障害|身体の傾きに気づけない
脳卒中では感覚障害を伴うことがあります。

感覚障害があると、
- 足が床に着いている感覚が分かりにくい
- 身体の傾きに気づきにくい
- 力の入れ具合が分かりにくい
といった問題が生じます。
その結果、
- 麻痺側に荷重できない
- 立位が不安定になる
- 歩幅がばらつく
ことがあります。
筋力は保たれていても、身体の位置が分からなければ安全に歩くことは難しくなります。
▶︎感覚障害については、視床出血の記事で詳しく解説しています。
病識低下|危険性を正しく判断できない
脳卒中後には、自分の身体能力を正しく認識することが難しくなる場合があります。

例えば、
- 介助が必要なのに一人で立ち上がる
- 転倒歴があっても危険だと感じない
- 「自分は大丈夫」と考えてしまう
といった行動がみられます。
身体機能以上に転倒リスクが高くなる原因の一つです。
評価場面と生活場面は違う
リハビリ室では、
- 静かな環境
- 十分な見守り
- セラピストの声掛け
があります。
一方、病棟や自宅では、
- 周囲の刺激が多い
- 注意が分散する
- 疲労が蓄積する
といった違いがあります。
そのため、「リハビリでは歩けるのに病棟では歩けない」という現象が起こります。
実際の生活場面を観察することは、身体機能評価と同じくらい重要です。
リハビリで大切な視点
脳卒中後の歩行能力を考えるとき、身体機能だけでは不十分です。
大切なのは、「何が歩行を妨げているのか」を考えることです。
- 感覚障害なのか
- 注意障害なのか
- 半側空間無視なのか
- 失行なのか
- 病識なのか
- あるいは複数の問題が重なっているのか
原因によって必要なアプローチは大きく変わります。
だからこそ、麻痺だけでなく、生活場面での行動や高次脳機能にも目を向けることが重要です。
まとめ
脳卒中後の歩行や生活動作は、麻痺の程度だけでは説明できません。
注意障害、半側空間無視、失行、感覚障害、失語症など、見た目では分かりにくい問題が影響していることがあります。
「歩けそうなのに歩けない」
その背景には、必ず何らかの理由があります。
転倒リスクを考える際は、麻痺の程度だけでなく感覚障害や高次脳機能障害、病識の低下などにも目を向けることが重要です。
