脳卒中後はなぜ疲れやすい?自律神経障害のメカニズムとリハビリの考え方
脳卒中後の症状というと、麻痺や言語障害に目が向きがちです。
しかし実際には、
「疲れやすい」
「立ちくらみがする」
「汗をかきやすくなった」
といった、自律神経の乱れによる症状に悩まされる方も少なくありません。
これらの症状は見た目では分かりにくく、周囲から理解されにくいこともあります。
この記事では、脳卒中後の自律神経障害がなぜ起こるのか、そのメカニズムとリハビリの考え方について解説します。
脳卒中後の自律神経障害とは?

自律神経とは、私たちが意識しなくても身体の状態を調整してくれる仕組みです。
自律神経には、
- 交感神経:活動時に働く
- 副交感神経:休息や回復時に働く
の2つがあります。
通常は、この2つが状況に応じて切り替わりながら
- 血圧
- 心拍数
- 呼吸
- 発汗
- 体温
- 消化活動
- 排尿・排便機能
などを24時間休むことなく調整しています。
しかし、脳卒中によって自律神経を調整する脳のネットワークが障害されると、交感神経と副交感神経のバランスが崩れます。
その結果、自律神経障害として様々な症状が現れることがあります。
脳卒中後にみられる主な症状
自律神経障害では以下のような症状がみられます。
起立性低血圧
長期間の臥床や活動量の低下が続くと、立ち上がったときに血圧を保つ機能が低下しやすくなります。
その結果、立ち上がったときに血圧が下がり、
- めまい
- 立ちくらみ
- ふらつき
- 転倒
が起こりやすくなります。
また、脳卒中後の転倒は起立性低血圧だけでなく、感覚障害や高次脳機能障害など複数の要因が関係することがあります。
疲労感・倦怠感
自律神経のバランスが乱れると、身体が十分に休息モードへ切り替わりにくくなることがあります。
その結果、
- 疲れが取れない
- 身体が重い
- 集中力が続かない
といった症状がみられることがあります。
また、睡眠の質が低下することで疲労感が強くなる場合もあります。
発汗異常
汗の量も自律神経によって調整されています。
そのため、自律神経の働きが乱れると、
- 汗をかきやすい
- 汗が出にくい
- 左右で発汗量が違う
などの変化が起こることがあります。
心拍数の異常
心拍数も自律神経によってコントロールされています。
そのため、自律神経の調節がうまくいかなくなると、
- 動悸
- 脈が速くなる
- 脈が不規則になる
といった症状が現れることもあります。
排尿・排便障害
脳卒中後は膀胱の働きが過敏になり、少し尿が溜まっただけでも尿意を感じやすくなるため、頻尿や尿意切迫感がみられることがあります。
一方で、腸の動きが鈍くなることで便秘が起こることもあります。
なぜ脳卒中で自律神経障害が起こるのか
自律神経は身体のどこか一か所で働いているわけではありません。
脳から脊髄、末梢神経まで広いネットワークによって制御されています。

特に重要なのが、
- 島皮質
- 視床下部
- 脳幹
です。
これらは血圧や心拍数、体温などを調整する中枢として働いています。
脳卒中によってこれらの部位が損傷すると、自律神経の調節機能が低下し、様々な症状が現れるようになります。
自律神経障害は脳の損傷だけが原因ではない
脳卒中後の自律神経障害は、脳の損傷だけで説明できない場合もあります。
例えば、
- 長期間の安静
- 活動量の低下
- 睡眠リズムの乱れ
- ストレスや不安
- 体力低下
- 天候や気圧の変化
なども自律神経機能に影響します。
特に入院生活では活動量が大きく減少するため、血圧調節機能や体力が低下しやすくなります。
また、天候や気圧の変化によって、疲れやすさやめまいなどの症状が感じられることもあります。
このように、自律神経障害には、生活環境や身体の状態も関係しています。
リハビリで大切な考え方
自律神経障害に対するリハビリでは、「自律神経を鍛える」というよりも、身体が自律神経を働かせやすい環境をつくるという考え方が重要です。
段階的に活動量を増やす
長期間安静にしていると、身体は立位や歩行に適応できなくなります。
そのため、
- ベッド上での運動
- 座位練習
- 立位練習
- 歩行練習
と段階的に活動量を増やしていきます。
特に起立性低血圧の改善には、少しずつ身体を起こしていくことが重要です。
呼吸を整える

自律神経と呼吸は密接に関係しています。
浅く速い呼吸が続くと交感神経が優位になりやすく、疲労感や緊張感が強くなることがあります。
リハビリでは、
- 胸郭の柔軟性を高める
- 呼吸しやすい姿勢をつくる
- ゆったりとした呼吸を促す
ことも大切になります。
姿勢を整える

猫背や頭部前方位姿勢では呼吸が浅くなりやすく、身体にも余計な負担がかかります。
姿勢が改善すると、
- 呼吸しやすくなる
- 血流が改善する
- 疲れにくくなる
ことが期待できます。
生活リズムを整える
自律神経は生活習慣の影響を受けやすい特徴があります。
そのため、
- 朝決まった時間に起きる
- 日中に活動する
- 朝日を浴びる
- 夜更かしを避ける
といった習慣も重要です。
自律神経障害は「見えにくい後遺症」
麻痺は周囲から見て分かりますが、自律神経障害は外から見えにくい症状です。
そのため、
「怠けている」
「気のせいでは?」
と誤解されてしまうこともあります。
しかし本人は実際に、
- 強い疲労感
- めまい
- 動悸
- 体調不良
を感じていることがあります。
症状を正しく理解し、身体の状態に合わせて活動量を調整することが大切です。
脳卒中後には、自律神経障害以外にも周囲から理解されにくい後遺症があります。
まとめ
脳卒中後の自律神経障害は、血圧・心拍数・発汗・体温調節などを担う神経ネットワークの障害によって起こります。
また、脳の損傷だけでなく、活動量低下や生活リズムの乱れも症状を悪化させる要因になります。
リハビリでは、
- 段階的な運動
- 呼吸の改善
- 姿勢の調整
- 生活リズムの安定
を通して、身体が本来持つ調整機能を引き出していくことが重要です。
「なんとなく疲れやすい」「立ち上がるとふらつく」といった症状も、自律神経障害が関係している可能性があります。
身体機能だけでなく、自律神経の働きにも目を向けることが、脳卒中後の生活の質を高める第一歩になるでしょう。
