脳卒中後の墜落歩行|肩甲帯・体幹機能から考える原因とリハビリ
脳卒中後、
- 歩くたびに足が「ドン」と床に落ちる
- かかとから静かに着地できない
- 長く歩くと疲れやすい
このような歩き方がみられることがあります。
一般的には「墜落歩行(ついらくほこう)」と呼ばれ、足首の筋力低下が原因と説明されることが多い歩行障害です。
しかし実際の臨床では、足首の問題だけでは説明できないケースも少なくありません。
麻痺側上肢の重みや肩甲帯の不安定性が、歩行に影響していることもあります。
この記事では、墜落歩行と肩甲帯・体幹機能の関係、そして自宅でできるリハビリについて解説します。
墜落歩行とは?
墜落歩行とは、歩行中に足が床へ落ちるように接地する歩き方です。
通常は、かかとが床に触れた後に足首周囲の筋肉が働き、ゆっくりと足裏全体が接地します。
しかし墜落歩行では、この動きがうまく行えず、
- 足音が大きくなる
- 接地時の衝撃が強くなる
- 歩行が不安定になる
といった特徴がみられます。
墜落歩行を放置すると
墜落歩行では、足首で衝撃を吸収しにくくなります。
そのため、
- 転倒リスクが高まる
- 膝や腰への負担が増える
- 疲れやすくなる
といった問題につながることがあります。
特に脳卒中後では、麻痺側へ十分に体重を乗せられない状態が続くことで、身体の左右差が大きくなり、腰痛の原因となることもあります。
下垂足との違い
墜落歩行は下垂足と混同されることがあります。
下垂足
- つま先が上がりにくい
- 歩行中につま先が引っかかる
- 足を高く持ち上げて歩くことがある
墜落歩行
- かかとで着地したあと、足裏が急激に床に着く
- 足音が大きくなる
両者は同時にみられることもありますが、必ずしも同じものではありません。
セルフチェック

次のような特徴はありませんか?
- 麻痺側だけ足音が大きい
- 歩行中に身体が大きく揺れる
- ぶん回し歩行がみられる
- 麻痺側へ体重を乗せるのが苦手
- 歩行中に麻痺側の肩が下がりやすい
複数当てはまる場合は、墜落歩行が生じている可能性があります。
一般的に考えられている原因

墜落歩行は一般的に、
- 前脛骨筋の筋力低下
- 足首のコントロール低下
- 感覚障害
- 痙縮
などが原因と考えられています。
確かにこれらは重要な要素です。
しかし脳卒中後の歩行を観察すると、それだけでは説明できないことがあります。
足首だけでは説明できないケース
例えば、
- 前脛骨筋の筋力はある程度保たれている
- 装具を装着している
- 足首の可動域も大きな問題がない
それでも墜落歩行が残ることがあります。
このような場合は、体幹や骨盤の機能低下が関係している可能性があります。
体幹機能が低下すると何が起こるのか
歩行は足だけで行うものではありません。
身体を支える土台となるのが体幹です。
体幹機能が低下すると、
- 骨盤が不安定になる
- 重心移動が不十分になる
- 麻痺側で体重を支えられない
- 下肢をコントロールしにくくなる
といった問題が起こります。
その結果、足を前へ振り出しても接地時の衝撃を吸収できず、足が床へ落ちるような歩き方になります。
片麻痺の体幹機能の評価・アプローチは、こちらの記事で詳しく解説しています。
肩甲帯や上肢の影響
脳卒中後では、肩甲帯や麻痺側上肢の位置も歩行に大きく影響します。

肩甲帯は、前鋸筋や僧帽筋などが協調して肩甲骨を胸郭に安定させ、上肢の重みを支えています。
この働きが低下すると、麻痺側上肢の重みを十分に支えられなくなり、
- 体幹が麻痺側へ崩れる
- 骨盤が不安定になる
- 重心移動が乱れる
ことがあります。
その結果、下肢だけで身体を支えようとして歩行がぎこちなくなります。
足が床へ落ちる現象も、その一部として現れている可能性があります。
片麻痺の上肢機能への評価・アプローチは、こちらの記事で詳しく解説しています。
回復過程でみられる歩行の変化
脳卒中後の歩行回復には個人差がありますが、体幹・骨盤からアプローチした場合、次のような経過をたどることがあります。
① ぶん回し歩行

麻痺側で十分に支持できず、大きく足を外へ回して振り出します。
ぶん回し歩行については、こちらの記事で詳しく解説しています。
② 墜落歩行
足は前へ出せるようになったものの、体幹や骨盤、肩甲帯の安定性が不十分なため、接地時に足が落ちるようになります。
③ 左右差が少ない歩行
体幹や骨盤の支持性が向上し、歩行の左右差が徐々に目立たなくなります。
このように考えると、墜落歩行は回復過程の一段階としてみられる場合もあります。
改善のためのポイント
墜落歩行は、足首だけの問題ではありません。
脳卒中後では、
- 肩甲帯の不安定性
- 体幹機能の低下
- 骨盤の不安定性
- 麻痺側支持性の低下
が関係していることがあります。
これらの機能が低下すると、
- 重心移動が不安定になる
- 麻痺側へ体重を乗せにくくなる
- 足のコントロールが難しくなる
ため、足が床へ落ちるような歩き方につながります。
改善のためには、
- 肩甲帯
- 体幹
- 骨盤
が協調して身体を支えられる状態を目指すことが大切です。
身体を支える力が向上すると、歩行は徐々に安定し、墜落歩行の改善につながります。
自宅でできるリハビリ
ここからは、肩甲帯・体幹・骨盤の協調性を高めるために、自宅でも取り組みやすい運動を紹介します。
① 座位での麻痺側上肢への荷重
椅子に座り、机やベッドに麻痺側の手をつきます。

その状態で身体を少し麻痺側へ移動させ、腕で体重を支えます。
ポイントは、
- 肩をすくめない
- 肘を軽く伸ばす
- 身体をゆっくり乗せる
ことです。
この練習は、
- 肩甲帯の安定性
- 体幹機能
- 麻痺側への重心移動
の改善につながります。
② 四つ這いでの麻痺側上肢荷重
四つ這い姿勢で両手に体重を乗せます。

慣れてきたら、
- 前後へ重心移動
- 左右へ重心移動
を行います。
歩行中の支持機能に近い練習になります。
特に、
- 肩甲骨周囲筋
- 前鋸筋
- 体幹筋群
が協調して働きやすくなります。
③ 四つ這いでの対角線運動

四つ這い姿勢から、
- 麻痺側上肢
- 非麻痺側下肢
を少し持ち上げます。
難しい場合は下肢だけでも構いません。
この練習では、
- 肩甲帯
- 体幹
- 骨盤
が連動して働きます。
歩行時の体幹回旋や支持性の改善につながりやすい運動です。
日常生活でのポイント
脳卒中後は、麻痺側上肢を使う機会が減りやすくなります。
しかし、肩甲帯や上肢は歩行時の体幹バランスにも関係しています。
日常生活では、
- 麻痺側上肢を抱え込まず、机や肘掛けを利用して支える
- できる範囲で肘を伸ばし、上肢で体重を支える
- 麻痺側にも体重を乗せる機会を作る
ことを意識してみましょう。
麻痺側上肢で身体を支える経験が増えることで、肩甲帯や体幹の安定性向上につながり、歩行が改善することがあります。
まとめ
墜落歩行は、足首の筋力低下だけで起こるわけではありません。
脳卒中後では、
- 体幹機能の低下
- 骨盤の不安定性
- 肩甲帯や上肢の影響
- 麻痺側支持性の低下
などが複雑に関係していることがあります。
足が床へ落ちるという現象だけを見るのではなく、「なぜ身体を支えられないのか」という視点で考えることが、改善への第一歩になります。
