何から勉強するか悩む若手セラピストへ|私が最初に教える4つの基本
若手セラピストからよく聞くのが、
「何から勉強すればいいのかわからない」
「知識がまとまらない」
「自分のアプローチに自信が持てない」
という悩みです。
私は、セラピストの強みはハンドリングによって必要な筋活動を引き出せることだと考えています。
そのためには、身体機能とADLを結びつけて考え、正しく触診しながら動作を誘導できる力を身につけることが大切です。
現在、私が最初に伝えているのは次の4つです。
- 身体機能へのアプローチ
- ADLへのアプローチ
- 高次脳機能障害へのアプローチ
- ゴールを決める習慣
この4つが土台になることで、その後どの分野を学んでも知識と経験がつながりやすくなります。
ただし、これは私自身が大切にしている「ハンドリング」を軸にした学び方です。
セラピストにはさまざまな強みがあり、必ずしも全員が同じ方法で成長する必要はありません。
まずは自分の得意なことを一つ見つけ、それを伸ばしながら学びを広げていくことも大切です。
身体機能へのアプローチ
まずは身体の土台を整えることから始めます。
私が最初に身につけてほしいと考えているのは、「目的の筋肉が本当に働いているか」を確認する力です。
臨床では、動作ができていても、実際には別の筋肉による代償で成立していることが少なくありません。
そのため私は、触診しやすい筋肉を評価し、正常運動と代償運動を区別できるようになることを重視しています。
特に、
- 腹横筋
- 大殿筋
- 大腿四頭筋
- 三角筋
は最初に確認できるようになってほしい筋肉です。
土台となる腹横筋の評価

腹横筋は特定の運動だけで確認する筋肉ではありません。
私はROMエクササイズやADL練習など、すべての場面で腹横筋の働きを確認しています。
確認するポイント
- 呼吸が止まっていないか
- 下腹部に自然な張りがあるか
- 猫背や反り腰になっていないか
です。
腹横筋が十分に働いていないと、
- 息こらえ
- 胸郭優位の呼吸
- 脊柱起立筋優位の体幹保持
などの代償が起こりやすくなります。
腹横筋は姿勢や動作の土台となる筋肉です。
そのため私は、個別の筋活動を見る前に、まず呼吸と体幹の安定性を確認するようにしています。
ROMエクササイズで確認する筋活動
大殿筋
側臥位での股関節伸展

確認したいこと
大殿筋による股関節伸展が起きているか
よくみられる代償
- ハムストリングス優位の股関節伸展
- 骨盤前傾・腰椎伸展による代償
ポイント
股関節が伸びていても、大殿筋が働いているとは限りません。
ハムストリングスや腰の筋肉で代償していることがあるため、大殿筋を触診しながら運動を確認します。
大腿四頭筋
仰臥位での膝伸展

確認したいこと
大腿四頭筋による膝関節伸展が起きているか
よくみられる代償
股関節伸展や足関節底屈を伴う共同運動
ポイント
膝が伸びていても、大腿四頭筋が十分に働いているとは限りません。
大腿四頭筋を触診しながら、ハムストリングスによる代償的な収縮が起きていないかを確認します。
三角筋
仰臥位または座位での肩関節屈曲

確認したいこと
三角筋による肩関節屈曲が起きているか
よくみられる代償
僧帽筋上部による肩甲骨挙上
ポイント
腕が上がっていても、肩をすくめるような代償が起きていることがあります。
三角筋と僧帽筋上部の働きを区別できるようにします。
身体機能へのアプローチでは、触診や視診を通して、目的の筋肉と代償している筋肉を見分ける力を身につけます。
この視点が身につくことで、姿勢や動作の見方が変わり、ADLアプローチへとつながっていきます。
ADLへのアプローチ
身体機能は、ADLの中で活用されて初めて生活に活かされます。
例えば、ベッド上で動けない方や起き上がれない方に歩行練習を行っても、普段の活動にはつながりにくいです。
生活の中でできることを増やすためには、ADLを構成する要素を理解し、必要な筋活動を引き出しながら、動作を順序よく獲得していくことが重要です。
ただし、「歩けるようになりたい」という希望が強い方にとっては、歩行練習そのものが意欲を高めるきっかけになることもあります。
心身機能とADLの両面を考えながら介入することが大切です。
以下は、私が獲得を推奨している順序です。
① 寝返り
主な構成要素
- 頸部回旋
- 肩甲帯の前方突出
- 体幹回旋
- 骨盤回旋
主に確認したい筋活動
- 腹斜筋群
- 前鋸筋
- 股関節内転筋
誘導・姿勢修正のポイント
肩を引っ張るのではなく、肩甲帯と骨盤の回旋を引き出しながら体幹の連動を促します。
② 起き上がり
主な構成要素
- 体幹回旋
- 肘支持
- 側方への重心移動
主に確認したい筋活動
- 腹斜筋群
- 腹横筋
- 前鋸筋
- 股関節内転筋
誘導・姿勢修正のポイント
腕の力だけで起き上がるのではなく、体幹を使った起き上がりを目指します。
③ 座位保持
主な構成要素
- 骨盤の安定
- 体幹の伸展
- 左右への荷重調整
主に確認したい筋活動
- 腹横筋
- 大腿四頭筋
- 股関節内転筋
誘導・姿勢修正のポイント
- 骨盤を立てた座位を作り、左右均等に荷重できるよう調整します。
- 過度な体幹緊張や左右差を観察しながら姿勢を修正します。
④ ベッド上移動(お尻上げ・背抜き)
お尻上げ
主な構成要素
- 股関節伸展
- 骨盤挙上
- 体幹固定
主に確認したい筋活動
- 大殿筋
- 腹横筋
- 大腿四頭筋
誘導・姿勢修正のポイント
- 腰だけを反らせて持ち上げる代償に注意します。
- 大殿筋による股関節伸展を意識しながら骨盤を持ち上げます。
- 膝が開いたり閉じたりしないよう下肢のアライメントを整えます。
背抜き
主な構成要素
- 上肢支持
- 肩甲帯の安定
- 体幹の安定
- 重心移動
主に確認したい筋活動
- 前鋸筋
- 腹横筋
誘導・姿勢修正のポイント
- 肩をすくめるのではなく、肩甲骨を安定させながら上肢支持を促します。
- 肘だけで押すのではなく、体幹と連動して身体を軽く浮かせます。
- 腰を反らせる代償に注意しながら支持性を高めます。
⑤ 立位保持
主な構成要素
- 足部支持
- 骨盤の安定
- 重心のコントロール
主に確認したい筋活動
- 腹横筋
- 大殿筋
- 大腿四頭筋
- 股関節内転筋
誘導・姿勢修正のポイント
麻痺側への荷重や左右対称性を意識しながら姿勢を整えます。
⑥ 立ち上がり
主な構成要素
- 前方重心移動
- 股関節伸展
- 膝伸展
主に確認したい筋活動
- 腹横筋
- 大殿筋
- 大腿四頭筋
誘導・姿勢修正のポイント
引き上げる介助ではなく、自ら重心を前方へ移動できるよう誘導します。
⑦ 移乗(踏み替え)
主な構成要素
- 片脚支持
- 重心移動
- 方向転換
主に確認したい筋活動
- 腹横筋
- 大殿筋
- 大腿四頭筋
誘導・姿勢修正のポイント
方向転換時のバランスや荷重の抜けに注意します。
⑧ 歩行
主な構成要素
- 立脚期の支持
- 重心移動
- 振り出し
主に確認したい筋活動
- 腹横筋
- 大殿筋
- 大腿四頭筋
誘導・姿勢修正のポイント
前かがみや左右差などの代償動作がみられる場合は、手引き歩行を行いながら正しい重心移動と荷重を促します。
高次脳機能障害へのアプローチ
高次脳機能障害では、できないことばかりに目を向けないことが大切です。
経験が浅い時期は、
- 何ができないのか
- どこに問題があるのか
に意識が向きやすくなります。
もちろん評価は重要ですが、回復には段階があります。
脳は興味や楽しさを感じる活動の方が取り組みやすく、意欲や主体性が引き出されやすい特徴があります。
また、興味のある活動や成功体験は脳の報酬系を活性化し、学習や神経可塑性にも良い影響を与えると考えられています。
そのため、はじめから苦手な課題ばかりを繰り返すと、
- 意欲の低下
- 失敗体験の蓄積
- 活動量の減少
につながることがあります。
私はまず、本人が安心して活動に参加できる状態をつくることを大切にしています。
例えば、
- 昔の思い出について話す(回想法)
- 一緒に外へ出て景色を見る
- 外の空気を吸いながら過ごす
- 好きだった趣味の話をする
など、安心して取り組める活動から始めることがあります。
高次脳機能障害への介入では、苦手なことを改善する視点も大切ですが、それ以上に「参加したい」「やってみたい」という気持ちを引き出すことが重要です。
その上で、対象者のできることや興味・強みを活かしながら介入を進めていきます。
セラピストへのポイント
- できないことを探すだけで終わらない
- 本人のできることや強みを見つける
- 興味のある活動を介入に取り入れる
- まずは安心して参加できる環境をつくる
- 「やりたい」という気持ちを引き出す
ゴールを決める習慣
リハビリでは、身体機能の改善そのものが目的になってしまうことがあります。
しかし、歩行能力や筋力は手段であり、ゴールそのものではありません。
対象者にとって本当に大切なのは、改善した機能を使ってどのような生活を送りたいかです。
例えば、
- 自分で歩いて散歩に行きたい
- 家族と穏やかに過ごしたい
- 趣味を再開したい
- 一人で買い物に行きたい
など、人によって目標は異なります。
そのため私は介入の前に、
「この方はどんな生活ができたら幸せだろうか」を考えるようにしています。
目標が明確になると、評価や治療の方向性も決めやすくなります。
セラピストへのポイント
- 介入内容がゴールにつながっているか常に考える
- 身体機能の改善を目的にしない
- 本人や家族の希望を確認する
まとめ
経験が浅い時期は、早く効果を出そうと、技術や知識を増やすことに意識が向きがちです。
しかし、その前に身につけておきたい考え方があります。
私が最初に伝えているのは、
- 身体機能へのアプローチ
- ADLへのアプローチ
- 高次脳機能障害へのアプローチ
- ゴールを決める習慣
という4つの基本です。
この4つを軸にすることで、学んだ知識や技術がつながり、対象者をより深く理解できるようになります。
新しい知識や技術を学ぶことも大切ですが、それ以上に、対象者をどう見るかという視点を身につけることが重要です。
私は、その視点がセラピストとして成長するための土台になると考えています。
